少女たちの素敵な花園

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 お父さんとお母さんは私がいなくなったことに気がついているのだろうか。大学に入学し上京してから一年になるが,両親への連絡は口座にお金が振り込まれたときにそっけない定型文でお礼のメッセージを送るだけだった。  どうしてこんなことになっているのか,誰かの恨みをかったのか,たまたま私が変質者に目を付けられたのか,誰がなんの目的で私を拘束し,映画や漫画の世界でしか観たことのない状況になっているのか理解できなかった。  散々泣きわめき,許しを請い,なんでもするから解放してくれと喉が千切れるほど叫び続けた。小さなボールの隙間から漏れる叫び声は誰にも届かず,誰も反応せず,なにも起こらなかった。  唯一の大きな変化は,腹部を締め付けていたベルトがいつの間にか緩くなっていたことくらいだった。しかしそれは拘束している何者かがベルトを緩めてくれたのではなく,私のお腹が異常なほど細く痩せこけてあばら骨が浮き出ていたことすら自分で気が付かなくなっていた。  唇がカサカサに乾燥し,ひび割れ,唇を少しでも動かすと血が滲んだ。意識が朦朧とし,間接照明の光の筋が七色に見えた。首に入ってくる液体が焼けるように熱く感じる度に,無理矢理現実に引き戻され全身が痺れ涙が溢れた。  暴力を振るわれるわけでもなく,性的に襲われるわけでもなく,ただこうして拘束され,ゆっくりと命を削られていくことで自覚のないまま恐怖のなかで笑いが止まらなくなっていた。  いつの間にか恐怖心は完全に麻痺し,天井の規則正しく並んだ穴を見つめているだけの時間を過ごした。排泄物も当たり前のように垂れ流した。誰もなにもせず,ただこうして拘束されチューブから僅かばかりの栄養を与えられ自分がどうなっていくのかなど考えられなくなっていた。
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