3947人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうだね…私も賢祐と同じ…私たちの関係の名前がどうであれ、大切で大事で大好きな事に変わりはないから…もしも戸籍上の変化があったら…不安かもしれない…変化は怖い…変わるというのは怖いよ…」
桜が穏やかな暮らし以外何も求めていないのはよく知っているし、俺も桜との暮らし以外何も要らない。
「マスターと奥さんのことは、大切にしたいな」
桜は暑さを感じさせない爽やかな笑顔で空を見上げて言う…まるで天国の両親に語り掛けているようで言葉に詰まった。
「…そうだな、大切にしような」
7月梅雨明け直前、先日出版社に出した原稿がゲラとして上がってきたので外の暑さと無縁の仕事場と、たまに喫茶店への往復という生活が始まった。
桜も俺の執筆中やゲラチェック中の行動は心得たもので、家に居れば適度に声を掛けて休憩させてくれる。そして彼女も俺への気持ちを自覚した今は、たまに甘えに来てくれるのがこの上ない幸せだ。今まではこんなに仕事場に来てくれなかったが、今も俺の隣で曽根さんが貸してくれた本を読んでいる。その横顔を見ていると、ふと桜が顔を上げ首を傾げた。何でもないと軽く首を振り
「幸せだ…そう思ってた」
「私も今とっても幸せ…ありがとう賢祐」
どちらからともなく口づけを交わすと、静かな部屋に穏やかな空気が漂った。
[完]
最初のコメントを投稿しよう!