番外編 8月

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「本…ありがとうございました。賢祐の本より読みやすくて…一度さっととても早くに読み終わったあと、もう一度ゆっくり読みました」 「あぁ、その読み方よくやるわ、私も。とりあえず先が知りたくて斜め読みして、それからもう一度じっくり味わう」 「そうなりますよね」 「でも、西野さんの書く本は斜め読みが出来ないのよ」 「興味深い話です。曽根さん、その理由を是非聞きたいです」  突然の賢祐の声に二人で驚いたが、賢祐は余裕の笑みを浮かべ私の横にあるアームに少し腰掛けた。彼は曽根さんに頷いて答えを促し曽根さんは遠慮がちに口を開いた。 「まず言葉の集め方が…こうして日常的に使っていない言葉がポンポン出てくるんです。かといって難しい言葉ばかりではない。難しい言葉ばかりだったらそこを読み飛ばしてとりあえず先にってなるけど、日常的なものと絶妙にミックスされているから自然に使い慣れない言葉が目に入り丁寧に読む。そして…丁寧に読むと行間に…なんというか…思想的とか哲学的なものを感じとる。だから斜め読みどころか一文読み進んで1ページ戻ることがある…そんな感じです」 「なるほど…音楽も絵画も書籍も感じ取り方は人それぞれで、同じ人でもそれに触れた時の心身の状況で受け止め方は変化するものだと思います。年月を経て読み返してもらい、また違った事を感じ取ってもらえたら嬉しいです」 「賢祐が先生みたいだ…」  私の声がみんなに届き笑われ、特にマミさんは爆笑していた。
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