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花火が始まり部屋の明かりを控え、窓越しに大空に咲く色とりどりの大輪を楽しむ。
「きれい」
「この部屋、特等席だな」
俺の前に立つ桜に言うと、彼女は空に視線を投げたまま頷いた。そして視線はそのまま誰に言うともなく宙に言葉を浮かべる。
「3年生か4年生の時…この花火大会を見たよ…人いっぱいで河川敷まで行けなくて…でもよく見える公園見つけて…お父さんとジャングルジムに登って…走って汗だくだからお母さんが水筒を渡してくるんだけど…飲んだら花火が見えないって…私が言い返すの…」
桜の珍しい昔話に俺は思わず彼女を後ろから抱きしめ、右側から竹野内さんの手が桜の頭に乗り、桜の左手はマミの右手と繋がった。
「その公園を見つけて…来年はそこから見たいな、桜ちゃん」
橘さんが窓に一歩近づき上を見上げて言うと一際大きい大砲がうち上がり腹に響く。
「クライマックス…さあ、桜ちゃん瞬きできないわよ」
マミが言うと同時に連続して黒いキャンバスに大きな華が咲いた。
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