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「あれ、テレビで見たことある」
店内を出てしばらく歩くと、多くの人が行き交う木製の橋を観光客らしく指差す桜を見て頬が緩むのを抑えられない。
「うん、渡月橋。渡る?それとも河川敷公園を歩く?」
「河川敷がいいな」
少し歩き座れる場所を見つけ並び座る。遠慮なく肩が触れ合う距離で座れることに嬉しさを感じ思わず名前を呼んだ。
「桜」
「うん?」
口を開けば熱いものがこみ上げそうで押し黙った俺の隣で
「賢祐…私、幸せだよ。お父さんもお母さんもいなくなっちゃったけど…今とても幸せ…賢祐のおかげだよ、ありがとう」
桜の言葉に、口を開けなくても瞼が熱くなり何も返せなかった。彼女はそんな俺を知ってか目の前を流れる川を真っ直ぐ見据えたまま続けた。
「生きていて良かったと心から思えるの、いま。事故の時には何で私だけ生き残ったんだろうって思ったし…手術してもまた手術って言われて…何のために…何のために…生きてるのって…死にたいと思ったことも…あった、何度も。でも今とても幸せだから、こんな事も初めて口にできるよ」
桜が言い終わる前に、俺の目からは12年分の涙が零れ隠しようもなくなった。彼女はほんの少し俺に肩を寄せ、ただ真っ直ぐ前を向いていた。
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