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西野桜子
体育館併設の区立総合運動公園を取り囲むように建ち並ぶ、オフィスビルとマンション。公園に面したマンション1階に、私の働く喫茶店がある。AM6時~PM6時の営業中、私はAM10時~閉店まで勤務というのが7年間続いている。
賢祐に軽く手を振り喫茶店のドアを開けると、珈琲豆を挽いた香りが店先まで漂う。寛ぐお客さまの邪魔にならないよう、小さくマスターと奥さんに挨拶しカウンターを通り抜ける。
店のエプロンを着けながら、今日は賢祐、1周2キロほどの公園回りを歩いてから帰っているかも…と思う。
彼は成人する前に、小説で新人賞を受賞して以来、短編、長編に関わらず何かしら毎年話題作を世に送り出す小説家だ。彼は執筆について積極的に私に話する訳ではないが、長年の経験から、今は執筆前に構想を練っている時期で彼が外を好む時期だと思う。
カウンターに入ると、奥さんが
「桜ちゃん、よろしく」
と小さく言ってエプロンを取り帰って行く。奥さんは朝からこの時間までと、私が休みの水曜日1日は店に出る。定休日は火曜日で私は火水が休みになるというのも7年間変わらない。
この何の変化もない静かで穏やかな日々以上の幸せはないと思う。
これ以上、何もいらない。
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