西野賢祐

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西野賢祐

 桜が掃除してくれた部屋で、新しい作品の執筆を始める。準備は整っていたが想定外の事が起き、執筆開始が少し遅れた。  いろんなものを同時に書き進められる人もいるようだが、俺は作品を書き始めるとそれ一本を書く。だから、月刊雑誌の連載などというのは断る。作品と作品の合間に単発で書く仕事は受けた事があるし、映画の試写会へ行き宣伝用に感想を書いた事もある。だが自分の作品ひとつを世に送り出すまで、他のものは書かないし読まない。資料と向き合い、ひたすらキーボードを叩く。  ここには窓際にも、部屋の真ん中にも机があり、座卓まである。気分や姿勢を変えるために座る場所を変える事があるのだ。  書きたい気持ちに駆り立てられていたせいか、初日の進み具合はまずまずだ。一旦手を止め早めに喫茶店へ行く事にする。桜がいることでオーバーペースになることは少ない。たまに、止められなくなって朝が来ることはあるが稀だ。  夕方、子どもたちが公園で楽しそうに追いかけ合うのを見ながら喫茶店へ入る。 「「いらっしゃいませ」」  マスターと桜の小さな声が今日も揃っていることに感心しながらカウンターに座った。  今日はまだ書けそうだな…珈琲の香りに包まれながら頭の中で執筆していた。
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