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「桜子」
車で追い抜いたため、歩道を戻り向かい合うように声をかける。彼女は立ち止まりぼぉーっと俺を見ると
「…竹野内さん」
「こんばんは。こんなところでどうかした?桜子?」
ゆっくりと首を横に振りながら、彼女はポロポロと…本当にポロポロと音をたてそうな涙を溢した。
「失礼します。桜子さんとおっしゃるのですね?私たち…あぁ…私、秘書の曽根ですが、私たち仕事も終わりましたし、どこかに落ち着いて一緒に座りませんか?」
「そうして、桜子。車がそこにある。泣いている君を放ってはおけないよ。行こう」
返事をしない彼女の背中に手を添えると、反対側に曽根が寄り添い
「少し冷えそうですね、今夜は」
なんて声を掛けている。
「運転しているのも秘書で、橘という社長の従兄弟です」
曽根がいて助かったかも知れない…そう思いつつ桜子を車に乗せ俺も隣に乗り込むと
「…ご迷惑おかけして…申し訳ありません」
と、桜子は誰に言うでもなく頭を下げた。
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