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あるいは、これが御三家に生まれた娘の役目と早々に割り切っているのだろうか。
御三家――神代家、括家、柱谷家。この村の神様に仕える、神聖な三つの家。この家の間でぐるぐると互いに夫、嫁を出し合うのがこの村の暗黙の了解の一つだった。彼女はこの神代家に、括家から嫁いできた嫁である。三つの家の中でも、神代家は特に特別な立ち位置にある。括家の人間としてこれほど名誉なことはありません――と彼女が無表情に語っていたのは何年前のことだっただろうか。
――まあ、いいか。そんなの、私が考えるようなことじゃない。
私は気持ちを切り替えて、奥様に頭を下げると、膳を二つ重ねて持って母屋を出た。外に出た途端、ひんやりとした風が全身を包み込み、思わず身震いすることとなった。秋ももう終わろうとしている。心も凍えるような冷たい冬まであと少し――そう思うと心底うんざりさせられる。冬は、私にとって一番嫌いな季節だからだ。
目的地は、広い庭の隅にある離れである。そこには、特別な少女が一人で暮らしている。
「綾子様、いらっしゃいますか?」
私が戸と叩くと、中からぱたぱたと駆けてくる小さな足音が聞こえてきた。がらら、と引き戸が開いて、顔を覗かせたのは今年で八歳になる少女である。
「加代子さん!おはようございます!」
「おはようございます、綾子様。朝食をお持ちしました、一緒に食べましょう」
「うん!もう準備できてるの!ごはん食べようごはんー!」
「はいはい」
真っ赤な派手な着物は、遠くの町から仕入れたとても高価な品である。綺麗に整えられたおかっぱの髪には、金色のこれもまた値の張る簪がキラキラと輝いていた。私の給料の何か月分が飛ぶのかな、とちらりと思ってしまって嫌な気持ちになる。彼女を妬む権利など、自分には一切ないというのに。
この綾子、という少女の身の周りの世話をすること。それが、今の私の仕事だった。彼女が赤ん坊の頃から実質乳母として接し、毎日三食の食事を共にして、彼女の衣服を洗ったり身を清めたり遊び相手になったりをする。それ以外の仕事は、ほとんど他の使用人たちに任せっきりでいいということになっていた。はっきり言って、毎日冷たい水で洗濯物をしたり、広い母屋を掃除して回らなければいけない他の者達と比べると格段に楽な仕事だろう。なんせこの古臭い村には、未だにまともな洗濯機も電子レンジもないのだ。
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