罪悪の庭

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 極力、下界との交流を断ち、この村の文化が外に漏れないようにしている。この村の神様が、外の世界の空気を嫌うからという名目だが、本当のところはこの村の因習の情報が外に漏れるのを防ぐためなのだろう。この場所では、人権侵害など当たり前、家柄と神様が全てで回っている。小型の通信機が頻繁に扱われるようなハイテクな文化の人間たちと、相いれる筈がないのだ。 「綾子様、食事が終わったら今日はいかがなさいましょう?」  彼女と一緒に食事をするのも私の仕事だ。それゆえに、私は他の使用人達よりずっとご馳走を食べることが赦されている。綾子が、加代子さんと自分で食べ物が違うのはおかしい!と主張したからだ。朝から鯛の焼き魚なんて、贅沢にもほどがあるだろう。綾子にとっては、この食事は当たり前。稗と粟を中心にした使用人の食事こそ質素すぎておかしいと思っているのだろうが。 「今日は、昼から天気が崩れるとのこと。お召し物が汚れてしまいますし、できれば屋内での遊びをされた方がいいと思いますが」 「家の中ってこと?ええ、つまんない……。家の中の遊び、ほとんどやりつくしちゃったのに」  ぷう、と綾子は可愛らしく頬を膨らませる。白い頬が僅かにバラ色に染まり、なんだか苺大福でも見ているかのようだ。旦那様をはじめとした一部の大人だけが、時折仕事の名目で村の外に出ることを許されている。その時、大福を始めとした雅なお菓子を買ってきてくれることがままあり、綾子もそれを心底楽しみにしているようだった。お菓子と同じだけ彼女が喜んだのが、長く遊べるカルタやトランプの類である。殆どの時間を離れで一人、あるいは私と二人だけで過ごす彼女には、退屈しのぎができることも少ないのだ。 「ねえ、村の外には、テレビっていうものもあるんでしょ?けいたいでんわ、っていう遠くの人といつでも話ができる機械もあるんだって旦那様が言ってた!なんで、このおうちにはそういうものがないの?」 「この家だけではございません。村全体に、殆どそういうものはありませんよ」 「なんでなんで?私、村の外のこともっと知りたいのに!」 「はあ……」  ああもう、旦那様ってばなんで余計な話ばっかりするのだろう。私は頭が痛くなる。彼女も自分も一生この村から出られない身だ。外の世界への興味なんか持ってしまったら、それこそ辛くなるだけだというのに。 「……村の外には、恐ろしい人間がたくさんいるのです。だから、村の外に興味を持つことを控えた方がいいのですよ」  仕方なく、私は自分の娘達に言い聞かせてきたのと同じ言葉を口にするのである。
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