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帰りの電車。ドアによりかかって流れていく外の景色を眺める。
真由のお陰で、心のもやが大分晴れて、ホッとした気持ちになっている。私、真由と出会えて良かった。よし、明日から真由様と呼ぼう。意外とすんなり受け入れそう。普通に返事をする真由を思い浮かべて笑う。
真由はただ田島との恋を楽しめばいい、と言ってくれた。本当にそうなんだと思う。
佐々木の顔が浮かぶ。
佐々木への報告を迷っている。頑張っておいで、と言ってくれた。でも、応援はしないと言っていた。
もし、田島が他の人を好きだったら、私は同じことを言えたかな。嫉妬や悲しさや焦りが入り交じって、普通に会話するのも難しいんじゃないかな。
改めて、佐々木はすごい、と思う。
理不尽なことは言わず、でも自分の気持ちもキチンと伝えて。心の声が聞こえないのに、相手の気持ちも、自分の気持ちも見定めて、ないがしろにしない。
そんな佐々木だからこそ、報告したら良かったね、と笑ってくれると思う。でもそれは、言わせてるのと同じ。私が安心したいだけ。
じゃあ、報告しなかったら?いつか、人づてに、その事を聞いたら、どんな気持ちだろう。私だったら、やっぱり寂しいと思う。
グルグルと考えているうちに、自宅の最寄り駅に着く。家までの道を歩きながら、同じことを繰り返し考える。
スマホが揺れ、田島からのメッセージを受信する。
-今日、体、大丈夫だった?
-うん、大丈夫。ありがとう。
-がっついてごめん。
私はクスリと笑う。がっついたのは私も同じなのに。
-こちらこそ。
昨日、田島と過ごした時間を思い出す。
一緒に居られるだけで幸せ、なんて陳腐なセリフだと思っていたけど、本当だったなぁ。他にも、寝ても覚めても、とか、世界が色づく、とか、身も心も溶ける、とか。陳腐どころか超的確。今まで白けた目で見てたドラマの脚本家の皆さん、ごめんなさい。
感情って、自分のものなのに、全部把握してるわけじゃないんだな。自分でもそうなんだから、人の気持ちや感情なんてなおさら。
佐々木がどう思うか、なんて考えても分かるわけないんだ。そもそも、佐々木にも、田島にもいい顔したいなんて二人に失礼。うん。それならもう、自分の心のままにやるしかない。結果、ひどい奴だと言われても、それが私なんだから仕方ない。
私はスマホを握りなおし、佐々木に電話をかける。心臓がバクバクと耳元でなっているように感じる。
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