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母は、そんな私に 「恋はしてほしいな。」 とよく言っていた。 「百合ちゃんの能力があると、大変なことも多いと思うけど、でも人を好きになる気持ちって、とても大事だと思う。誰かに愛される経験もぜひしてほしいの。」 まだ小さかった私は、そうなんだぁと、目を輝かせた。いつか、私にも白馬の王子様が現れて、この能力も乗り越えるくらいの素敵な恋をするんだぁ、なんて思っていた。 でも結局、今に至るまで、私の人生にそういったイベントは発生していない。 思春期に恋をしかけたこともあったけど、相手の心の声が聞こえないと、眼中にないんだと落ち込み、聞こえたら聞こえたで、思わぬ思考に幻滅したり、嫌われたくない一心で勝手に右往左往したりして。 甘酸っぱさを感じる前に、徒労感ばかりを感じてしまった私は、いつしか、恋愛というものを避けるようになっていた。 おそらく母は、そんな私の心情を察していて、私が20歳を過ぎたあたりから、恋をしてほしいと言わなくなった。
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