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「もしもし、北見?」
「こ、こんばんは。北見です。」
あ、声が震えてしまった。佐々木が笑っている。
「こんばんは。田島と上手くいったんだね。」
はれ?・・・え?はい??
「ど、どーして、わかった・・・?」
「津川さん?」
いや、違います。驚きすぎて声が掠れただけです。
「分かるよ。このタイミングで電話きたら田島のことだろうし、北見は振られちゃったーなんて電話してくるタイプじゃないし。」
「いつもながら、すごいね。」
「そうかな。」
「・・・ええっと。」
言う前に、要件が終わってしまった。どうする?もう切る?いやいや、私、津川さん的掠れ声披露しただけなんだけど。
「伝えてくれてありがとう。」
佐々木の優しい声が聞こえる。
「いや、正確には伝えられなかったけど。」
「あ、そっか。俺が言っちゃったね。ごめん。」
ははは、と笑っている。
佐々木、なんでそんなに優しいの?なんでそんなに強いの?
「はあー、俺明日から生きていけるかな。」
「え・・・。」
強くはなかった?
「聞いてくれる?俺、惚れてる子がいるんだけど、その子、先週、好きな奴できて、今週にはもう付き合い始めたんだって。展開早すぎだろぉ。こっちは振られるの恐くて4年も身動きとれずにいたのにさぁ。」
「それは・・・、災難でしたね。」
「俺はこれから大逆転狙うぞっ!て気合い入れたところだったのにさ。」
「・・・そっか。」
「でも、ちゃんと報告してもらったから、よしとする。」
「え?」
「このまま放っておかれて、忘れ去られたらどうしよう、って思ってた。」
「そんなわけないよ。」
「うん、北見がそんなことするわけなかった。でも、そんな当たり前のこと分からなくなるくらい、どうしようもなく北見が好きなんだ。」
「・・・うん。」
「好きだよ。」
「・・・うん。」
「大好きだ。」
「・・・うん。」
電話で良かった、と思う。今、目の前に佐々木がいて、顔を見ていたら、震える声の理由を見てしまったら、私、間違った優しさで、間違ったことをしてしまいそう。そして、佐々木を傷つけるに違いない。
「しつこくて、ごめん。明日からは、もう言わないから。」
何か言わなきゃと思うけれど、なんと答えればいいのか分からず、黙ってしまう。
「大好きだよ、北見。」
「うん。」
「田島のことは嫌いになりそう。」
クスリと笑うと、佐々木もフッと笑うのが聞こえる。
「ちょっと時間かかるかもしれないけど、俺、ちゃんとこの気持ち消化するから。」
「うん。」
「そしたらまた、同期として仲良くしてよ。」
「こちらこそ、お願いします。」
「大丈夫そうって思えたら、シラーっとみんなの輪の中にもどるからさ。そんとき笑うなよ。」
「笑わないよ。」
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