156人が本棚に入れています
本棚に追加
佐々木が、あーあ、と伸びをしているような声をだす。
「北見と公園でアイス食べた時、キスくらいしとけば良かったな。」
「ちょっ、なに言ってるの?」
「いや、何回か思ったんだよね。北見隙だらけで、しようと思えばいくらでもできたから。」
「いくらでも・・・?」
「うん、いくらでも、何度でも、どんな風にも。」
「怖い。」
「あは。」
あは、じゃないよ。さっきのメソメソはどこ行った!?
「そろそろ、家着いた?」
アパート前の公園に差し掛かったところだったので、思わずビクリとしてしまう。
「佐々木って、何かの能力者なの?」
「何それ。」
「何でもお見通しだから。」
「いや、なんとなくだよ。北見の声と周りの音が、外歩いてる感じだったから、家に帰る途中かなーっ、駅からだったら、もうそろそろだなーって。」
「すごいよ。佐々木に比べたら、私はどんだけぼんやり生きてるんだろう。」
「じゃあ、最後にかっこつけると、夜道を一人で歩いてるなんて心配だな、家着くまでは電話切らずに送り届けよう、とも思ってた。」
「ありがとう。」
「いいんだよ、好きだから。」
「グッ・・・。言われすぎて、顔が熱いです。」
「言い納めだからね。気が済むまで言っとかないと。」
玄関前に到着し、立ち止まる。
「着いた?」
「着いた。」
「そっか。残念。」
「・・・。」
「もうちょっと話していたかったけど、かっこわるいからやめる。」
「・・・佐々木。」
「ん?」
「ありがとう、送ってくれて。」
「電話だけどね。」
佐々木が、ははは、と笑ったあと、黙る。
しばらくの沈黙の後
「じゃ、また。」
と静かに言った。
「うん、またね。」
私は答え、ゆっくりと終話ボタンを押した。
最初のコメントを投稿しよう!