引く手あまたの つづみさん

5/5
前へ
/12ページ
次へ
おぼろ雲が 空を 水色に染めて 霞がかった山の ところどころに見える 石竹色の木が 春の訪れを知らせてくれる 「よぉ 今日も来てしまったよ。おまえさんの 甘い蜜がほしくてな 」 「こんにちは ハチさん。どうぞ お好きなだけ」 「やっほぉ!初めまして ボクはてんとう虫。キミの 黄色い花を 近くで見たくて 飛んできたんだ」 「はじめまして てんとう虫さん よろしくね」 「おかあさん みて!可愛い お花が 咲いてるよ」 「あら 本当。もう 春ね」 嬉しいわ みんなが わたしを見てくれる お話しをしてくれる 遊びに来てくれる 「やぁ、ごきげんよう」 聞き覚えがある やさしい声 「綺麗な花を咲かせたね。ワタシが思った通り きみは とても魅力的で 人気者になっている」 「お久しぶりね ありさん」 「きみの 元気な姿を見れて とても嬉しいよ」 「ありがとう ありさん。あなたのおかげよ」 「きみは ひまわりに似ているね」 「え?ひまわりさんに?わたしが?」 わたしは ひまわりさんの 言葉を 思い出した "私とあなたは 似ているところもあるのよ" 「黄色い花びらかと思ったら よく見てみると 細長い花なんだね。その花が集まって 全体がひとつの花のようにみえる。ひまわりと同じだ」 わたしは 嬉しくて 嬉しくて 涙が出た 「ははは きみの涙は 甘いんだね。ありがとう。きみは とても可愛くて 綺麗な花だよ たんぽぽさん」 ありさんは わたしの花に優しいキスをして 帰っていった わたしは 花である日々を 楽しく幸せにすごし そして ふわふわの 白いわたげになった もう 花は咲いてないけれど それでも みんな わたしを見ると 笑顔になってくれる わたしは “たんぽぽ“として花を咲かせられたことを 誇りに思う そして 麗らかなある日 「こんにちは 迎えに来たよ」 声は聞こえるけれど どこから? なんだか とても懐かしく思えるその声に 「こんにちは あなたはだれ?」 と問いかける 「僕は運び屋だよ。さぁ いこうか」 わたしは 暖かい風に包まれて 春の雲が広がる空に溶け込んでいった
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加