悲劇と断絶

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悲劇と断絶

僕には、もう頼る場所も頼れる人もいない。それは僕のせいではあるが、手にしていたものはあっという間になくなった。 それは間違いなく僕が起こした事故のせいだ。 約三年前に遡る。僕は自分の好きなオーケストラのCDを聴きながら車を運転していた。その日はとても気分がよかった。 いつものように仕事を終え、家路に向かって走っていた。もう、夜の七時を回った頃だ。 ある交差点に差し掛かった時、突然黒いものが目の前に現れた。僕はそれを避けようとしてハンドルを思い切り右にきった。なんとか間に合った、とホッとしたのも束の間、車は何かに当たっていた。 すぐさま車から降りて、車体の下を確認すると、一人の男が(うめ)き声をあげながら倒れているのが見えた。 僕はどうしようもなく怖くなって、思わずその場から立ち去ってしまった。 それからすぐに僕のところに警察が来た。逃げたことで僕は逮捕された。 起訴され、実刑が言い渡され、二年六ヶ月の刑期を終え、ここに戻ってきたばかりであった。
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