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二枚目
『蝋梅の花が満開に咲き乱れる頃、私は、ずっと下をむいていました。甘くて優しい香りのする、あの黄色い花を見上げることができなかったのです。
ことの発端は、ある男の存在でした。私はこの男には逆らえない事情を抱えていたのです。
この男の名前を、仮にSとしましょう。
Sは私を自分の都合のいいように扱いました。「飯を用意しろ」「物を買ってこい」など、いつも私に指図するのです。
これはまだいい方でした。挙げ句の果てには、「金を持ってこい」と金銭まで要求するようになってきたのです。
初めのうちは何とか用意して渡していました。けれども次第に大きな金額を提示してくるのです。さすがに私もそれは無理だと断りました。
すると、Sは私を殴りました。今度は暴力で支配しようとするのです。よくある話です。他人事としてはつまらない話でしょう。
ですが、それがいざ自分に降りかかると、とてつもない恐怖が襲ってくるのです。足がすくんでもう逃げられなくなってしまいます。
私はそのサイクルにまんまと引っ掛かってしまいました。自分ではもう何も出来ません。それが私の世界の全てになってしまったからです。
ここから抜け出す術を、まだこの時には見出だせずにいました。ですから、この恐怖が永遠に続くということだけが、私の中の真実の思いを伏せていたのです』
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