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五枚目
『苦労した分だけ報われる、そんなことはないのです。どんなに耐え難いことをしても、その先幸福が待っているとは限りません。
もとはといえば、私が悪いのです。
私が罪を犯さなければ、誰かを傷付けることもなかったし、Sに虐げられることもなかったでしょう。因果応報なのかもしれません。
私はこの先も報いを受けて行くのだ、そう信じて疑いませんでした。
ある日、私はSがNと話しているところを偶然にも見かけたのです。二人が知り合いの仲だということは知りませんでした。
何となく気になって、二人に感付かれないようそっと近づき、じっと耳をそばだてていました。
二人はどうやら腕時計の男に嫉妬のようなものを抱いており、少し凝らしめてやろうと計画していたようでした。
そこへ私が腕時計を偶然にも盗んでしまったものですから、驚いたというのです。
しかし、Sはそれをチャンスだと考えたようでした。私の出来心を利用して、腕時計の男を困らせようと企んだのです。
Nはこのことは知らない様子でした。ですから、私を庇うような発言をしたのでしょう。
Sは私に近づき、腕時計を受け取ると、そのままオークションに売りに出し、金に換えてしまったのです。
それを知った時、私はショックを受けました。全ては私が原因かと思われていたものが、実は利用されていたのだと思うと、いてもたってもいられませんでした』
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