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桜並木道の中、金山祐希は大欠伸した。
この春から大学の2回生に進級する。
寝坊癖が祟り、一時はどうなるかと思った。
ぎりぎり滑り込みで進級ゾーンに乗っかった。
単位さえ取ってしまえば、後は時間の経過を待つだけだった。
待ち焦がれた春休みのひと時を、祐希はのんびりと過ごしていた。
特にこれと言ってすることはない。
強いて言えば、今、こうして桜木の下でゆっくり歩きたい、ということだろうか。
ブー、ブー
祐希のスマートフォンが鳴る。
「よお、久しぶり」
言うほど久々ではなかったが、中学からの同級生の吾妻からだった。
「おお、吾妻か。1週間ぶりだな」
「何してる?遊ぼうや」
こうして唐突に連絡をしてくるのも、最早定番だった。
実家が近所だったこともあり、昔は常に一緒に行動していた。
高校卒業後、祐希は進学、吾妻は就職。
進路も違えば、住む地域も違っていたが、なんだかんだで卒業後も、ずっと付き合いがある。
「おう、いいよ。じゃあ今からそっち帰るわ」
祐希は、お手本のような行動力を見せて、あっという間に荷仕度を終えた。
前回の帰省は夏休みだったから、今回は約半年ぶりの帰省だった。
帰省自体には、特に新鮮味を感じなかった。
せっかく帰るんだから、何か物珍しさというか、おもしろそうなものはないか、そう思いながら心につっかえていたことを口にした。
「ハナ・・・・・・」
隅に追いやられそうになっていた記憶を、引きずり出した。
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