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聞き慣れた音が浅い眠りの終わりを告げた。
トン、トン、トン……階段を上がる足音が部屋の前で止まり、ドアが開かれる。
「おーい、美里。体、大丈夫か?」
父さんの声が静かな部屋に優しく響いた。ドアからヒョッコリ覗く顔に向けて、まだ少し重い体を起こした。
「うん。熱も下がったし、大丈夫みたい」
「学校、どうする?行けるのか?」
「うん。行くよ。大丈夫」
「そうか。朝ご飯、出来てるから下りて来なさい」
「うん、あ……父さん」
「どうした?」
私は慌てて顔を横に振った。
「ううん、何でもない」
やはり、その一言を口にするのは躊躇ってしまう。
それは家庭の中でもそうだし、学校でもやっぱり同じ。
だから、今日も……。
不意の発熱で二日振りに登校した教室は、気の所為か何時もより騒然としていた。自分の席に着くと、後ろから行き成り誰かがギュッとハグして来た。
「わっ!」思わず声を上げて顔を横に向ける。
「美里~っ!おはよっ!淋しかったよ~」
弾む様な声の主は幼馴染みでクラスメートの山野井灯だった。
「ちょ、ちょっと苦しいよ、灯」私の上半身をガッツリ包む様に腕を絡めてくる。
「いいじゃん!親友を抱き締めて何が悪いの?私の愛情を受け止めなさいよっ!」
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