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「あ、山野井さん。いいんだ。真鍋さんも病み上がりだし、無理しなくていいからさ」
再び皆から好かれる笑顔を浮かべて言っている…のだろう。私は彼の顔を見ていられないから分からないけど。真面に受け答え出来ない私の代わりに、灯が両手を腰に当てて答えた。
「数衛様を以てしても無理かぁ。クラス委員長殿、悪いね。気にしないでね。美里は男子慣れしてなくて。私と違って」
「そ、そうなんだ」滝下君が高い声で受けた。
『え?灯、そうなの?聞いた事無いけど』
「まあそんな訳だから、委員長。美里も。二人共変な蟠りは持たないって事で!これで終わりねっ」
そうこの場を締め括った灯だったが、後に彼女はこの話題を再び持ち出してきた。
それは、昼休みに校舎の中庭に置かれたテーブルの一つが空いてるのを見つけて腰を下ろした時だった。横には満開を迎えたソメイヨシノが佇み頭上の空は桜色で満たされていた。
「美里、やっぱりあれ。無理だったの?滝下君に『ありがとう』するのは」
私は小さく一つ息を吐いた。
「うん。言わなきゃって思うんだけど。やっいぱり思い出しちゃうんだよね」
「ママとの思い出かぁ。でもさ子供の頃は毎日言ってたんでしょ?」
「うん。毎日三回は感謝の気持ちを込めて言うのが、ママとの約束だったから。毎日続けたら、高校生になる頃には一万回になるねって……そんな話ししてたよ」
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