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終章5
私は今でも後悔しています。
あの時のことを。
それは、家族が行方不明になってしまったことだけじゃない。
そもそも、あの時の家族の形が、間違っていたんです。
私は会社で出世をし、仕事に追われ、息子や妻と会うことが次第に少なくなっていった。
早く帰ってきてね、という言葉に応えられなくなっていました。
次第に妻や息子と距離が出来始め、私も次第に距離を置くようになったんです。
そして、しまいには全員が顔を合わせずに生活するようになっていった。
私はあの時、そんな家庭の形もありだな、と思っていたんです。
だから、何も気にしていなかった。
”妻がいなくなっていたことにさえ”気が付かなかったんです。
手記でありましたよね。
『母親は週に一回くらいは仕事を早く切り上げて帰ってくる』
けれど、手記には一切母親との会話描写はない。
この時点で、私の妻はいなくなっていたんです。
しかし、”いない”のが当たり前になっている家族ですから、誰もそれに気が付かなかった。
私の妻は家を出て行ったんじゃない。
あの家の”家族”になってしまっていたんです。
少年は現れたあの”老女”を”母さん”と呼んでいた。
それでピンときたんです。
そう、私の妻は私よりもかなり年上でしたからね。
そして、裕太。
あなた方の”家族”では”俊介”かもしれませんがね。
私は遅くに帰ってきた裕太の異変を、表面的にしか感じることが出来なかった。
なぜか服を泥だらけにして帰ってきたり、先に部屋に行っている訳などないのに、ジャックは自分の部屋にいるといったり。
私はあの時、久しぶりに裕太と話して、何だか目の覚める思いでしたよ。
裕太は見ない間に大きく成長していました。
けれど、私に対しての態度に大きな壁を感じました。
まあ、無理もないですがね。
それでも私は、裕太の異変から、一体何に悩んでいるのか、必死に考えようとしました。
あの時の裕太は、とても疲弊した顔付きをしていましたからね。
何かあったんだ、ということは直ぐにでも分かりましたよ。
でも、私にそれを打ち明ける程、我々の距離は近くはなかった。
それを痛感したから、私はあの子が直面している問題を探ろうと思ったんです。
そして、密かにでも良いから、あの子を救ってあげたいな、そう思っていたんです。
あの子が手を合わせていた庭を掘り返して、ジャックの死体が出てきた時には、これは只事ではないと確信していました。
思えば、私はジャックの世話なんて、全くしていませんでした。
それも、あの子に愛想を尽かされた理由なんでしょうね。
その次の夜、どうするべきかと考えて眠れないでいると、足音が聞こえたんです。
あの子が家を出て行こうとしていた。
私は慌てて後を追おうとしましたが、既にあの子の姿はなかった。
しかし、あの子から脈絡もなく”洋館”の話を訊かれたのを思い出し、あの空き地へと向かった。
すると、驚いたことに、本当に洋館が建っていました。
しかし、既に時は遅かった。
あの子はもう家に入ってしまっていた。
全てが、手遅れだったんです。
もしあの時、あの子が家に入る前に止めていても、あの子はこの家に引き寄せられたでしょうね。
あの子は寂しかったんだ。
だから、あなた達の”家族”に引き寄せられたんです。
私が、何も見ていなかったから。
私があの子に何もしてこなかったから。
本当の意味で、”手遅れ”だったんです。
あの家にまつわる情報を集めるために、私は探偵となった。
失った”家族”を捜すためにね。
そして、ついにこうしてあなたは私に声を掛けた。
あなたは”誘い人”なんでしょう?
私は、逃げも隠れもしませんよ。
私が揃えば、”家族”が完成する。
私はこの真相にたどり着いて、こう思いましたよ。
”もう一度家族としてやり直せるかもしれない”
とね。
”家”は”惨劇”を起こそうとするかもしれない。
いや、惨劇を起こすのは”父親”である私かもしれない。
”最初の家族”殺害の”犯人”は恐らく父親でしょうからね。
どちらにせよ、私はそれを全力で阻止してみせますよ。
もう、後悔はしたくありませんからね。
さあ、宮上さん。
行きましょう。
いや、帰りましょう。
”我が家”に。
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