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終章3
この俊介くんという男の子、中々興味深いですよねぇ。
なぜかって?
それは、この俊介くんを我々は既に”知っている”からですよ。
年齢は小学校の低学年から中学年。
絵を得意とする。
内向的な性格。
これらの特徴、どこかで見ませんでしたかねえ。
そう、あの少年の手記じゃないですか。
これは、あの”少年”と同一人物なんですよ。
既に家に取り込まれてしまっていた彼は、あの家の住人となり、”俊介”という名を与えられた。
つまり、俊介くんはあの家の”息子”として違和感なく登場したんです。
次に、正行という父親として登場する人物。
現時点で父親は現れていませんね。
ならこの人物か、と疑いたくなるところですが、少し気になる記述がありますねぇ。
『のそのそと背中を曲げながら様子を見に来た』
こんな文言が書かれているわけです。
どうして背中を曲げる必要があったんでしょうかねぇ。
『正行が眩しいと言うので、可能な限り早めに電気を消しているのだが』
『何十にもなっている影を見たらしい』
夜中になっても、普通の家の電球を眩しいという。
影の件に関しては、これも一種の怪異か、と思いそうですが、これは違う。
普通の程度の照明を眩しいと感じる、ものが二重に見える。
これは、典型的な老人性白内障の症状ですねぇ。
そう、ここに出てくる正行という男性は、中年ではなく高齢者なんですよ。
つまり、役割としては”祖父”にあたるということです。
まあ、”夫”とは日記で書かれていないので、不自然ではないでしょう。
さて、この祖父とは一体誰なんでしょうか。
祖母のように、記録に残らないところで家に吸い込まれていた?
いや、違う。
我々はこの人物を既に知っています。
あの電話の記録を思い出してください。
会話の流れから察するに、彼らは五年前にもあの家に肝試しにやってきた。
その五年前にも、事件が起きていた。
そう、”宮上さん”ですよ。
彼は恐らく全員の囮となって、虚しくも殺されてしまったんだ。
一見、宮上という人物は他のメンバーと同じように若者のように思えますね。
”さん”付けで呼ばれている点についても、彼らの先輩と捉えられるかもしれない。
しかし、そもそも”五年前の事件”はどのような用件であの家を訪れる運びとなったんでしょうねえ。
肝試し?
いいや、違う。
『あの人がこないなモン買うたから』
『荷物見た時から、おかしいな思ててん』
『手伝いなんて、断るんやった』
何の話をしているんでしょうねぇ、これらの文言は。
私が思うに、この宮上という人物はあの家に”引っ越し”をしようと考えていたんですよ。
だが、宮上は独りでは引っ越しの作業を出来なかったから、彼らを呼んだんだ。
恐らく、宮上さんは教授か何かで、彼らは教え子だったんでしょう。
高齢者が独りで作業をするのは酷ですから。
作業が夜中に差し掛かって、”事件”は起きてしまったんでしょう。
年代物の時計や、彼らの話す人物像から考えても、宮上さんは老人であったことが伺えますね。
この時祖父となった人物が、後に”正行”となって現れた、そんなところでしょうねえ。
さて、次にこの日記の書き手となる女性です。
この女性については、ほぼ間違いなく”母親”とみなして良いでしょう。
そして、彼女の”本当の”娘である玲奈ちゃんは、”あの家の”娘となった。
ところで、玲奈ちゃんといえば、壁の中のお友達が、という話があり、”由美ちゃん”という友達の存在がいましたねぇ。
子供部屋は二つ。
俊介くんや玲奈ちゃん以外に子供がいるとは考えにくい。
思い返すと、電話の記録は”娘”をめぐる怪異でしたねぇ。
あの家で、彼女の”人形”が暴走を始めた。
”女の子の人形”がね。
由美ちゃんなる人物が登場した時点で、この母娘は既に”家族”となっていた。
それなのに、”普通の人間”が登場するはずはない。
もし”家族集め”の一環であったとしても、これ以上子供は必要がない。
”壁の友達”は恐らく”家の怪異”の一種で、メグちゃんというのは”最初の家族”でしょう。
『壁の友達に、家の友達。玲奈は忙しそうだ』
玲奈ちゃんが遊んでいた”由美ちゃん”は”人形”だったんですよ。
しかし、その人形は”メグちゃん”の元々の持ち物。
だから、メグちゃんは”取り返した”んですよ。
そう。
由美ちゃんの失踪事件は、単なる”人形紛失事件”だったんだ。
由美ちゃんの両親の話が一切言及されていないのにも説明がつき、二階から出られるはずがない、という文言も、”人形”だとすると説明がつきますね。
大事のように書かれているのは、単に玲奈ちゃんが大騒ぎしただけの話。
子供にとっては、気に入っていた人形がなくなる、というのは大きな事件ですからねぇ。
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