終章4

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終章4

柱谷さんについては、使用人と解釈するのが妥当でしょうねえ。 父親と解釈しても良いのですが、気になるのは方言だ。 あそこは特に関西圏でもないし、”最初の家族”のうちの誰か一人だけが関西弁を操っていた、というのは少し考えにくい。 ”母親の日記”にはこうありましたね。 『田舎者みたいな言葉で喋る人がいる。どこかの寺か山で育ったのだろうか』 関西弁を聞いて、田舎者、とか寺か山の出身だ、だなんて普通は思いませんよねえ。 これは、ここに”最初に”勤めていた使用人が、そういう地方訛りのある人間だったんでしょう。 だから、”訛り”という観点で柱谷さんは”使用人”となったんです。 少し強引な解釈ですが、あの家の”家族集め”は厳密であるように見えて、細かな部分はいい加減ですからねぇ。 さあこれで、祖父母、母親、娘、息子、使用人が揃ったわけです。 ”母親の日記”にはあの家の部屋は全部で10あると書かれていました。 居間、台所、食堂、”家族”を加えると、総数は9。 ”あと一部屋”残っていますねぇ。 もちろん、残りは”父親”ということになります。 誰が”父親”になるのか。 あと一人が集まれば、”惨劇”が再び始まる。 ねえ、考えてくださいよ、あなたも。 いや、宮上さんとお呼びした方がよろしいかな? おや、まさかまだ正体を知られていないとでもお思いになっていた? そんな小汚い変装をして、中年になりすましても、老いというのはどうしようもないものですからねぇ。 せめて変装をするなら、新聞記事くらいは見えているフリをしないと。 まあ、依頼された時から違和感はありましたがね。 あなたの正体は”誘い人”なんでしょう? いずれの手記でも、”家族”を誘いにあなたの存在はありましたからねぇ。 ”母親の日記”は勿論そうだ。 少年の愛犬であるジャックくんは最初の場面で吠えていましたねえ。 何もない空き地に、と書かれていましたが、そうではない。 暗闇に”あなた”がいたんだ。 少年はジャックくんの後を追うように来ると分かっていたから、あえて誘い込むようなことはしなかったが、きちんと見張ってはいたんですよねぇ。 『戻ろうとしたが、道の向こうに人影が見えたような気がした』 そもそも、あの家に引っ越そうというのが妙ですからねぇ。 なにも”あんな家”に引っ越さなくても、ねぇ。 なぜ、”引っ越し業者”に作業を頼まず、わざわざ教え子達を呼んだのか。 既に、とうの昔に、あなたはあの家の”家族”になっていたんですね。 本当は”五年前”に”住人”にしようとしたが、その時は他の人間の目もあって、上手くいかなかった。 そして、しばらくしてからあなたは彼を煽り、あの家に一人で来るように仕向けたんでしょう。 ”母親の日記”で少しだけ登場する”客”はあなたのことでしょうねぇ。 基本的に、あの洋館は普通の人間が来訪するというのはあり得ないですからね。 ”母親”は”客”と会うと緊張する。 それは、血の繋がっていない”舅”だから。 どんな目的かは知らないが、母親にあの日記を書かせたのもあなた、ということでしょうから、あの家に二人を招いたのもあなたの手引きだったんでしょうね。 今回の『洋館で起きている不可解な失踪事件を解き明かして欲しい』という依頼も、この私を”誘いに”来たんでしょう? この私を。 あなたはそうやって人を誘い込んで、人を欺くのが楽しいみたいですねえ。 しかし、私はこの依頼を考えもなしに引き受けた訳ではないんですよ。 私は”探偵”として、あなたに依頼される前から”あの家”の調査をしていたんです。 そもそも、私はなぜ探偵などやっているか分かりますか? 私もまた、”家族”を捜しているんですよ。 いつの間にかいなくなってしまった、”息子”と”妻”をね。 そう。 私は”少年”の”父親”なんですよ。
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