苦い回想

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   あの日から、ずっと考えていた。  加納君の、北斗に寄せる半端でない想いが心に重く圧し掛かって……苦しい。  俺より先に北斗に憧れ、見続けていたのが、誇らしい反面、すごく悔しくて……。  俺の知らない北斗を加納君は知っている。そう思ったら、堪らなくなった。  そこのところを聞いてみたいと思っていたはずなのに。  北斗のプレーに憧れ、そうなりたいと願い、目標にしている人間は他にもいるかもしれない。  けどこんな気分になるのは、きっと加納君に対してだけだ。  彼が並みの投手じゃないから、俺も彼に魅力を感じているから、よけいに怖かった。  北斗が、俺と同じに加納君に惹かれるのが。  いや、もう惹かれてる。  でなければ、大事な大会前にわざわざ彼を訪ねたりしない。  だから、北斗があまりにもあっさり別れを切り出した時、心のどこかでほっとした。  あいつの性格なら、一言でも励ましになる言葉を掛けて帰ると思い込んでいたから。  来た時と同様、いきなりの別れに拍子抜けし、それから、段々恥ずかしくなって……帰る足取りまで重くなってしまった。  北斗に、俺の狭量な心の内を読まれていた気がして。  これからも北斗を追い続けるという加納君の本心を聞いていたのに、それだけ北斗の存在は加納君の中で大きな割合を占めているのに、このまま黙って帰らせていいのか……。  どうして北斗がその事に関して、加納君に一言もなく帰路についたのかはわからない。  けど、今までの加納君の心情を思えば、このまま黙って背を向ける北斗を容認するのは、甲子園出場を断たれた彼に対する、二重の仕打ちに思えた。  俺を友達だと言ってくれた加納君だから、彼の支えになりたい。  それには、北斗の力が必要だった。  俺の心の葛藤が、北斗に思いがけない言葉を投げつける結果になった。 『加納君の好意に甘えるだけで、自分はさっさと甲子園に行くのか』  本当は、俺自身が一番望んでいた事。 『いってきなよ』 ( 行くな ) 『――加納君の、心の支えに――』 ( 俺だけの北斗でいて欲しい…… )  遠ざかる後姿を見つめ願っていたのは、加納君の未来なんかじゃない。  北斗が、少しでも早く俺の元に戻って来る事、ただそれだけだった。  そんな事を考えていた俺へのしっぺ返しだったのか、北斗が加納君を抱き締めるのを目の当たりにして、強烈な自己嫌悪に陥った。  この事は、北斗には絶対言わない。  彼を抱き締めた理由も……訊く資格、俺にはない。  なら、何も感じてない振りで接するしかない。  そう決心した通り、帰ってきた北斗に俺は本根を隠して接した。  それは、上手くいったと思う。  あと一歩、踏み込む勇気があったなら……  せめて、加納君を抱き締めた訳を訊いていたなら、自分の苛立ちの正体にもっと早く気付けたかもしれない。  だけど田舎の朋友—雅也に対してできた事が、北斗には何故かできなかった。  もう一度ぶつかる事を怖れた俺は、傷付く事を恐がるただの臆病者だった。
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