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記憶が商売に使われるようになったのは、十数年前のことだ。
記憶は専門の技術を持った人間によって移植されたり除去されたりする。
楽しい記憶や嬉しい記憶といった良質な記憶は高値で売れることがある。
なぜなら、誰か良質な記憶を、高いお金を払ってでもして手に入れようとする人間がいるからだ。
人間は記憶の中に生きている。
悲しい記憶やつらい記憶は、客がお金を払って専門の技術を持った人間に除去してもらう。
医者がガンを取り除いたりするのと同じだ。
自らの暗い過去の記憶を消し去りに訪れる人間は少なくない。
僕は、そういった記憶に関する専門の技術を持った人間の一人だ。
客の記憶を除去したり移植したりすることを生業にしている。
実はこの職業は、あまり褒められたものではない。
親にも、周囲の人間にも胸を張って言えることではないのだ。
記憶を商売道具にすることに関して自体、かなり賛否の声が上がっていた。
記憶に値段をつけるなんて、倫理に反するという声も多かったのだ。
だから僕はあまり人目につかない通りで、ひっそりと店を構えている。
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