第二話

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第二話

倉庫は開いていた。 どうやら係員が施錠し忘れたらしい。 中は真っ暗だ。 「行くぞ」 剣先の火を頼りに二人は中に入った。 左右には棚が並び、床にも箱が積まれている。 入り組んだ通路はまるで迷路だった。 「おーい。誰かいるかぁ?」 【いずモン】が叫ぶ。 奥の方からクスンという声が聴こえた。 二人は顔を見合わせると歩を速めた。 棚の陰に少女が一人、(うずくま)っていた。 「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」 【いずモン】を見て少女は真っ青になった。 「い、いや……」 首を振りながら後退りする。 そりゃそうだ。 こんな暗闇で悪の化身に出くわしたら誰でも驚く。 「その……なんだ……何もしないよ」 「そうそう、何もしないよ」 【いずモン】の言葉に【すさモン】も追従する。 少女の目にはなお懐疑の色が浮かんでいる。 「こんな所で怖かったろう」 「そうそう、怖かったろう」 「助けてあげるから安心して」 「そうそう、安心して」 「おい、お前。繰り返してないで気の利いたこと言えよ」 【いずモン】がツッコむ。 「あなたたち……悪の化身じゃないの?」 恐る恐る少女が口を開く。 「うーん、確かに悪の化身なんだけど……オレたちはいい悪の化身なんだ。いや、悪なのに『いい』っていうのもおかしいか。そうなると『いい悪』と『悪い悪』の説明も必要だし……」 「何訳の分からんこと言ってんだ!」 二人のやり取りに少女はクスリと笑った。 どうやら少し気がほぐれたらしい。 「どうしてこんな所にいたんだい?」 【いずモン】が優しく尋ねる。 「お姉ちゃんとかくれんぼしてたの。この中がいいかなと思って入ったらスマッシュレンジャーのものがいっぱいあったの。見てたら真っ暗になって……」 「それで怖くなってじっとしてたんだ」 その言葉に少女は小さく頷いた。 ガチャン その時、遠くで扉の閉まる音がした。 「おい、大変だ!出口が……」 慌てて戻る一行。 扉にたどり着くとすでに閉じられていた。 「おーいっ!誰かいないか!」 「中に人がいるんだ!あけてくれぇ!」 扉を叩き叫んだが反応は無かった。 恐らく気付いた係員が施錠したのだろう。 消灯した倉庫内に人がいるとは思うまい。 「閉じ込められた」 「ママぁっ!ママぁっ!」 再び少女が泣き出す。 「大丈夫だよ。お嬢ちゃん、名前は?」 【いずモン】は少女の前に(ひざまず)き優しく声をかけた。 「……うっ……チ……チハ……ル」 ひきつりながら話す少女の頭にそっと手を置く。 「チハルちゃんか。いい名だね。じゃあチハルちゃんにだけいい事を教えてあげよう」 おどけたようなその仕草に、少女の震えが次第におさまってきた。 「いい……こと?」 「そう。スマッシュレンジャーのことだ」 「え、なになに?」 大好きなヒーローの名を出され、途端に少女の眼が好奇に輝く。 「スマッシュレンジャーとオレたちは本当は仲良しなんだ」 「ええ!ほんとう!?」 「エーっ!本当か!?」 【すさモン】もつられて叫ぶ。 「ああ、本当だよ」 「でも、いつも悪いことして倒されてるよ」 「あれはね、練習をしてるんだ」 「れん……しゅう?」 「ああ、練習。すごく強くて悪い奴が来た時にいつでも倒せるように鍛えてるんだ。オレたちもスマッシュレンジャーと同じ正義の味方なのさ」 「おいおい【いずモン】、いくら子どもでもそんな話通用する訳が……」 「うん。分かった」 少女が大きく頷く。 「いや、分かったんかい!?」 【すさモン】があきれたように肩をすくめる。 「だから泣くんじゃないよ。オレたちが必ず君をおうちに返してあげるからね」 少女の顔に笑みが戻る。 「さてと……ほんじゃ試してみるか」 【いずモン】は立ち上がると【すさモン】の方に向き直った。 「おい【すさモン】、悪いけどお前の火で俺の顔を燃やしてくれないか」 「…………!?」 言葉の意味が分からず【すさモン】は声を詰まらせた。 「いや、別に殺してくれと言ってるんじゃない。(わら)の部分を少し(いぶ)すだけでいいんだ。」 「……な、なんでまた……何する気だ」 「いいから、早く」 「……分かったよ」 観念した【すさモン】は剣先を近付けた。 火は藁に燃え移り、たちまち【いずモン】の頭から黒煙が立ち上った。 「チハルちゃん、煙たいかもしれないけど少しだけ我慢してね」 少女が頷くのを確認してから、【いずモン】は暗闇の中を手探りで動き始めた。 暫くして突然倉庫内にけたたましく警報が鳴り響いた。 耳をつんざくその音に全員が飛び上がる。 「チハルちゃん、大丈夫だから。すぐに助けが来るからね。オレのそばから離れないで」 【いずモン】が少女を懸命に励ます。 少女は言われるまま【いずモン】にしがみ付いた。 やがて…… 施錠の外れる音がした。 開かれた扉の先に係員と女性が立っていた。 「ママぁっ!」 少女は叫びながら女性のもとに駆け寄った。 「チハル!」 女性は娘の体をしっかりと抱きとめた。
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