第一話

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第一話

「お前たち何ものだ!」 青空に勇ましい声が響き渡る。 赤や青で彩られた五人のヒーローが、今まさに悪を倒さんとしていた。 「オレ様の名は……」 しめ縄のような巨大な頭部にギョロ目の怪人が唸る。 「悪の化身、いずモン!」 「同じく、すさモン!」 隣に並んだおかっぱ頭に小さな剣を携えた怪人も続く。 「オレたちの世界征服の邪魔はさせん」 おかっぱ頭の構えた剣先に小さな火が灯る。 「この炎で焼き尽くしてやる。キィィ!」 「そんなことは許さない!」 言葉を返すと五人は横一列に並んだ。 「さあみんな、我々に力を貸してくれ!」 その台詞に客席から子どもたちの声援が湧き起こる。 「がんばれー、スマッシュレンジャー!」 黄色い声を背に五人は颯爽とポーズをとる。 「スマッシュアタぁぁっク!」 舞台上に閃光が瞬く。 「ぎやぁぁぁっ!!」 悲鳴と共に二人組の怪人は舞台袖へと消えた。 勝利を収めたヒーローは客席に向かって決めポーズを披露する。 歓声が更に大きくなった。 「お疲れ」 控室の床にどっかと腰を下ろす【いずモン】に【すさモン】が声をかける。 「ああ」 下を向いたまま【いずモン】が呟く。 「どうした?元気ないな」 【いずモン】は大きくため息をついた。 「オレ……この仕事やめようと思う」 「え!?なんでまた急に」 驚いた声で【すさモン】が聞き直す。 【いずモン】は宙を睨んだまま語り始めた。 「オレたちは元々出雲の危機を救うために考案された【ゆるキャラ】だった。オオクニヌシさんやスサノオさんの尽力でその危機は脱した。その後出雲のために尽くすようにと命を与えてもらった。でも問題はその後だ」 「それって最近のオレたちのことか?」 「ああ、そうだ。子どもたちも最初は喜んで近寄ってきてくれた。一緒に写真を撮り、サインもねだられた。離れると泣き出す子さえいた」 「今は近寄ると怖がって泣きだすからな」 昨今のゆるキャラブームの衰退に【いずモン】たちの人気も日に日に低下した。 今ではあちこちのヒーローイベントに悪役で出演するしかなかった。 「こないだも歩いてたら石ぶつけられたよ」 そう言って【すさモン】は頭をさすった。 「とにかく自分の存在意義が分からなくなったんだ。子どもたちに夢を与えて、いい大人になってもらう。出雲を誇れる地にしてもらう。それがオレたちの使命だった筈だ。それが今じゃ嫌われるだけの毎日だ。こんなことのために生きてるんじゃない」 【いずモン】は悔しそうに言い放った。 「やれブサイクだの、悪人顔だのと言われるのはウンザリだ。オレはこのまま出て行くよ」 そう言って【いずモン】は立ち上がると出口に向かった。 「ち、ちょっと待てよ!オレはどうなるんだ。まだショーは残ってるんだぜ。なんて言やいいんだ?」 「どうせ人間はオレたちが着ぐるみだと思い込んでる。中の奴が体調壊して帰ったとでも言っておいてくれ」 「そ、そんな……待ってくれよ」 腰にしがみつく【すさモン】をひきずりながら外に出ると妙に騒がしかった。 数名の係員と若い女性、小学生らしき少女が何か叫びながら走り回っている。 若い女性の顔は真っ青で、少女は泣いていた。 【いずモン】は係員の一人をつかまえると何があったか尋ねた。 「あの女性のお子さんがいなくなったんです。ショーの休憩中にお姉さんとかくれんぼをしていたらしいんですが、どこにも見当たらなくて……」 係員はそう告げるとまた捜索に戻って行った。 「あの泣いてる子、お姉ちゃんだな。可哀想に……」 しんみり語る【すさモン】の横で【いずモン】は何か考え込んでいた。 「確かこの会場の裏手に大きな資材倉庫があったよな。スマッシュレンジャーの衣装や舞台セットも収納されてる」 「ああ、あった……てまさか!?」 【すさモン】は驚いたように【いずモン】を見上げた。 「でも普段は閉まってるから誰も入れない筈だぜ」 「とにかく行ってみよう」 そう言うと【いずモン】は腰に【すさモン】をぶら下げたまま歩きだした。
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