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どろんこ遊びに精を出していたあの頃、俺たちは毎日公園で鬼ごっこ、かくれんぼ、トイレの後はズボンのお尻で拭いたりして、服がどろどろになることなんて気にもしていなかったのに
あいつは誰だ。
ポケットからハンカチが出てきた。控え目に光る髪留め。ひらひら膝の上で揺れるスカート。
気づけば、外で見かけることもなくなって、話しをすることも減っていた。
朝教室のドアを開けると、俺の席を巻き込んで4、5人の女が集まってぺちゃくちゃ喋る中にいたあいつと一瞬目が合う。
あいつは、俺の席を巻き込んで話し込んでいた友達たちに声をかけ、俺の席を空けた。
そんな様子も見ていたし、「おはよー」って笑顔を向けられていることにも気づいていたが、何故かむしゃくしゃして
「似合ってないんだよ!ブス!!さっさと失せろ!」
力任せに叫んだ。しーんと静まり返る教室と目に涙が溜まっていくあいつ。
周りの非難なんて聞こえないほどに俺は凄く戸惑ってしまって
「男みたいななりして、見苦しいんだよ!」
俺は、更なる罪を重ねてしまった。
それから俺たちは口を利かないままに中学に上がり、あいつは親の転勤で遠くへ引っ越していってしまった。
あの日に引っ掛かりを覚えたまま、何度目かの春を迎えた。
あの日のやり直しが出来たとしても俺は絶対に謝らないし、同じことを繰り返すだろう。だって、俺は未だにあいつが大人になっていくことが受け入れられない。他の男と笑いあう姿を見るとむかむかした。でも、あいつを傷つけたかったわけではない。俺は、後悔しているようだ。
桜の木を見上げ、ぼーっとあの日のことに思いを馳せていると、視界の端に薄桜色のスカートがひらひらと揺れた。ふわっとしたブラウスに細い腕が通されていて、どこか儚くて、目を奪われた。
「とっても似合っていて、綺麗だって褒めてくれてもいいのよ」
「あぁ、悪い。桜に霞んでよく見えなかったよ」
たくさんの花が開く季節に、俺はその中でも一等綺麗な花を見つけた。
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