911人が本棚に入れています
本棚に追加
見廻り
次の日の王妃教育は午後からにしてもらい、午前中はエリオット様の護衛兼侍従のジルを連れて、城の中を見廻っていた。
エリオット様の専属護衛を務めているジルは、騎士団の中でも5本の指に入るほど強いと聞いていた‥‥‥。一緒に来てくれるのはありがたいが、私よりも普通は王族を優先すべきであろう。
「エリオット様の側を離れて大丈夫かしら? 1人でも良かったのだけれど‥‥‥」
「エリオット様が望んだことですから、私では不服かもしれませんが、ご容赦ください。それにエリオット様は、私と同じぐらい強いですし、午前中は執務をしておりますので、あまり気にしなくても大丈夫でございますよ。むしろ1人で行かせたことが後で知れたら、私が怒られてしまいますし、次回からはエリオット様がついてくると思います」
「不服だなんてことは無いけれど、執務に影響がでてしまうのは困るわね」
そう言うと、ジルは笑っていた。気のせいだろうか? 生暖かい目で見られている気がする。
昨日、話し合いが終わった後に、オーベル様に詳しく話を聞いてみたら、禁忌の魔術の光は、普通の魔術の光と違って、緑の中に黒い塊が見えると言っていた。パッと見、分かりづらいのではないか? という疑問を持ちながら、城の中を順に見て廻った。
中庭から始まって、厨房、競技場、大広間‥‥‥。様々な場所の前を通った。練習場の前まで来ると、扉の隙間から緑の小さな光が、微かに飛び出ているのが見えた。
「アイリス様。こちらは魔術師の訓練所になっております。見ていかれますか?」
ジルは、私が扉を見て何かを感じ取ったことに気がついたのだろう。確かに緑の光が気になる。間近で見たら何か分かるかもしれない。
「ええ。お邪魔にならない様だったら、見学してみたいわ」
そう言うと、ジルは扉の前に立ってノックをする。少し大きめの両開きの扉を開いて、中の人に了承をとると、部屋の中へ入った。
整列した魔術師団の団員が横一列に並んで、こちらを向いて跪いていた。一番前には、オーベル様が立っており、騎士の礼をすると後ろの魔術師達もそれに倣って、騎士の礼をする。
魔術師団は団長のオーベル様以外、平民出身である。私は右手を上げると、みんなに聞こえる声量で言った。
「練習中にごめんなさい。少し見学させていただきますわ。気にせずに続けてください」
私は部屋の隅へ行くと、魔術を投げ合う様子を見ていた。緑の光の中に黒い何かがある様子は見られなかった。
「アイリス様、この部屋は特殊な造りになっておりまして、魔術を当てても部屋が壊れたりすることは無いんです」
「不思議ね。なにか結界みたいなものが、張ってあるのかしら?」
「アイリス様、おはようございます」
ジルと話していると、いつの間にか聖女エレナ様が隣に来ていた。おそらく今日は、魔術師団の補佐を務めているのだろう。
「エレナ様。この間は、大変申し訳ありませんでした。よく知りもせず、余計なことを致しました」
婚約パーティーで突き飛ばしてしまったことへの謝罪である。手紙では謝罪したものの、直接会って謝りたかったのだ。私が最敬礼をしながら言うと、エレナ様は顔を横にブンブンと振って笑顔で応えてくれる。
「アイリス様がご存知なかったことですし、仕方ないと思うんです。そんなに気になさらないでください」
そんな話をしていると、1人の魔術師が疲れたのか、よろけた拍子に倒れ込んだ。倒れた拍子に魔術が発動し、こちらに緑の塊が真っ直ぐに飛んでくる。
「きゃっ!!」
私は目をつむり、顔を腕で抱え込むように庇いながら思わず座り込んだ。しばらく何も起こらなくて、おそるおそる顔を上げると、魔術師団の人達が、私の顔をマジマジと見ているのが見えた。
「魔術が消えた??」
近くにいたオーベル様が駆けてくる。
「アイリス様、大丈夫ですか? 私の結界が間に合って良かったです」
「??」
ジルも駆け寄り、私の顔を覗き込んだ。
「アイリス様、お顔の色が優れませんね。一旦、戻りましょうか」
「そうですね。それが良いと思います。どうぞ」
私が混乱していると、オーベル様が手を差し出してくる。どうやら、エスコートしてくれるらしい。私はエレナ様に挨拶をすると、オーベル様にエスコートされながら、その場を立ち去ったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!