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識る力
次の日に「救世主様と会って、謝罪をしたい」と教会へ申し出たが、断られてしまった。「誤解でしたし、気にしておりません」と言われたという。
「‥‥‥はぁ」
今日、何度目か分からない溜め息をついた。何にせよ、誰かに誤解を与えてはならないし、死罪回避の為にも早く婚約破棄をして、この城から離れたい。死にたくない。
でも、一番難しいのはエリオット様の説得だろう。彼は優しいから、今のところ関係は良好だし、婚約破棄なんて考えてもいないのだろう。
婚約者を騙すのは胸が痛むが、彼なら私以外の女性でも、上手くやっていけるはずだ。というより、私以外の女性の方が良いのではないかとさえ思ってしまう。なんたって、私は『悪役令嬢』なのだから。
だから、円満に婚約破棄まで持っていける理由を作ればいい。向こうが幻滅する理由を作ればいい。
そんな事、できるかどうか不安だったが、でもやるしかない‥‥‥。やるしかないんだ。
私は決意を新たに、座っていた椅子から立ち上がると、そのはずみで机の角に足をぶつけたのだった。
*****
数日後。エリオット様から、個人的な晩餐会に招待された。エリオット様と城の関係者数人での食事を終えて、食後のハーブティーを飲んでいると、エリオット様が合図をしたのか部屋の扉が閉められた。
城の者たちは、いつの間にか部屋から退出しており、部屋の中には私以外にエリオット様と公爵家専属メイドのサラ、それから専属護衛のジルを含む4人しか残っていなかった。
内密な話だろうか?‥‥‥。そう思っていると、エリオット様が話始めた。
「この間の件についてなんだが‥‥‥。『識る力』について、調べてみたところ、かなり特殊な能力だということが分かった。今から話すことは国家機密に関わることなので、そのつもりで皆、聞いて欲しい」
「分かりましたわ」
メイドのサラと、エリオット様の護衛兼侍従のジルも頷いていた。
「識る力とは、王家に連なるものに現れる『神聖な力』とされてきたんだ。ただ、知っての通り、救世主がいないと魔力切れで死んでしまう可能性も無くはないので、王族保護の観点から、内密に伝えられてきた。だから、誰も詳しくは知らなかったんだ」
「そうでしたの」
「『識る力』に出来る事は、主に3つ。1つは魔力の流れを見ることが出来ること。2つ目は、見える魔力に触れて魔力を吸収することが出来るということ。3つ目は、吸収した魔力は自分で使うことも出来るし、相手に付与することも出来る。ということだそうだ」
何?! そのチートな能力。具体的にやってみないと分からないけれど、なんだか凄い気がする。私は、心の中で盛大な溜め息をついた。
こんな状況で婚約破棄‥‥‥。できるのだろうか?
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