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毒
客室でしばらく待機していると、ノック音が聞こえた。
「アイリス? さっきお茶してた庭に来てほしいんだけど‥‥‥。大丈夫?」
エリオット様だ。サラが扉を開けると、私はエリオット様の元へ、すぐに歩み寄った。
「問題ありません。すぐに参ります」
庭園に戻ると、魔術師団長のオーベル様と騎士団長のライナス様が来ていて、落ちたケーキやティーカップを見ながら何やら話し込んでいた。
「オーベル。アイリスを連れて来たぞ」
「これはこれはアイリス様。ご足労いただきましてありがとうございます」
「かまいませんわ。私も、王妃様に害なす者を早く見つけていただきたいですもの。協力は惜しみませんわ」
私がそう言うと、オーベル様はメガネの奥にある目をスッと細めて話はじめた。
「今日、持って来ていただいたパウンドケーキは、どのようにして渡されたのですか?」
「いつものようにメイドに持たせまして、こちらへ来た際に、王妃様にお伝えした後に、わたくしのメイドから王妃様のメイドへお渡ししたと記憶しております」
「その際、何か変わったことはありませんでしたか?」
私は『織る力』の事を話していいのか分からなかったので、一度エリオット様の方を見たが、頷いていたので、そのまま話すことにした。
「実は私、『織る力』を持っていまして‥‥‥。魔力が私の前を過って、パウンドケーキに向かって行くのが見えましたの」
「えっ、どういうことですか?」
「分かりません。私には、そう見えました。あれが何なのか、見当もつきません」
「‥‥‥そうですか」
オーベル様は考え込むと、「そんなことが」「いやまさか」とか「でもやっぱり」などと呟いていた。隣にいたライナス様が、取り成してくれる。
「アイリス様、ご協力感謝いたします。お疲れのところ、申し訳ございませんでした」
「とんでもありません。犯人を捕まえる為ですもの。当然のことですわ。ライナス様もいらっしゃったということは、何かございましたの?」
「いえ。私はオーベルと一緒に話をしていたのですが、騒ぎを聞きつけて共に参ったのでございます」
オーベル様とライナス様は同期ということで仲が良いらしい。確かに2人で話しているのを、城の中でよく見かける。
王妃殺害は免れた。ひょっとして、ひょっとしなくてもストーリーは自分の手で、変えられるのかもしれない。そんな考えが、私の中で過った瞬間だった。
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