伝う、結び

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 ただただ暑く退屈な道のりを、まだあと二十分以上ひとりで歩くのかと思うと項垂れる。  音楽でも聴こうかと思って鞄を漁ってみてもイヤホンの入れ物が見当たらず、いまや命綱にも似たそれを忘れていることに、またさらに肩を落としたその時――。  背後から自転車の爆速する音が聞こえたと思えば、振り返る余裕もなく私を追い越したそれは、まるでビューンッと効果音が付きそうな勢いだ。  そんなに急いでどうしたのだろうと呆気に取られながら、同じ学校の制服を着たその後姿にどこか見覚えのある気がした。  ……誰だったっけ? ぼうっと眺めていると。  その自転車は私から二十メートル程先で急停止をしたと思えば、その人物は振り返り私に視線を向けた。 「――っ(くすのき)、チャリは? ってか、それじゃ遅刻確定じゃん」 「あ、っと……え? 遅刻?!」  呼吸を乱れさせながらも綺麗に通る声で、そう話しかけてきたのは同じクラスの――牛窪(うしくぼ)(かえで)だとわかったのだけど……なぜかやけに焦りそんなことを口にした彼に目を丸め驚き、私たちはお互い顔を見合わせたまま数秒間沈黙が生まれた。  ――ハッとしてポケットから携帯を取り出し時間を確認してみても、まだ焦る様な時間ではなくて、「まだ大丈夫だと思うよ?」と、彼にスマホの画面を向ければ。  牛窪は自転車をバックさせて、息を整えつつ目を細めて画面を見つめると、途端にきょとんとした表情を浮かべ。 「え、何で? 俺の携帯のが一時間進んで……ああ、加織(かおり)の仕業だ」 「加織ちゃんが?」 「ん、そう言えば昨日俺の携帯弄ってたわ」  安心したのか深い溜め息を吐いて肩を落とした彼は、私に画面見せててと口にすると時計の設定を直しながら「目覚ましの時間まで変えるとは、用意周到な……」だなんて、微苦笑を浮かべながら呟く。
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