掬う、月日は滲む

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 * 「――……掻い摘んで聞いたら、牛窪(あに)が突飛かつ痛快な人だってことしかわかんなかったわ」  下駄箱の隅で茉莉と並んで壁に背を預け、昨日今日の出来事を手短に話した。茉莉は堪えきれないというように小さく笑いつつも溜息ともとれるような息を吐いて、そのまま言葉を続ける。 「で? まあ問題が晴れたわけじゃないんだろうけどさ、折角牛窪兄がお膳立てしてくれたのに、あんたらはまだ誰に対してしてるのかわからない面倒な気を遣ってバラバラに帰るなんてことしてんの?」 「いや、今日はそう言うわけじゃないんだけど……」  牛窪は今朝、帰り際のお兄さんから隣町にある和菓子屋さんの小豆最中(もなか)を買っておくように言い残されていて。それはどうやら人気商品らしく、なんで買いにいかなきゃならないのだと不服そうにしつつも、牛窪はホームルームが終わると同時にすぐ私の席に来て『ごめん、先に帰るね』と告げるなり、慌ただしく帰ってしまったのだ。  そんな姿に兄弟の縮図を垣間見たようで、ちょっぴり彼が不憫に思えたけど、私も明日家を訪ねてくる祖父母が来る前に、ため込んでしまっている洗濯や掃除を片付けなきゃいけなくて、名残惜しく牛窪の背中を見つめている場合ではないのだと急いで帰ろうとした時に、この厄介な頼まれごとを押し付けられたのだった。 「あのね、あの……受験ですごく、すんごく日々大変なのは重々承知なのだけど、今年はもう一生のお願いは使わないからここで使っても良いでしょうか……っ?」 「一生のお願いに今年も来年もないでしょうが……嫌よ、聞くまでもない」
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