掬う、月日は滲む

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「――なあ百香、俺はいつから百香の未来に存在しなくなった?」  ただまっすぐとした彼の視線にその問いに、じりじりと心が焦げていくような苦くて痛くて、空気が瞬間消えてしまったような感覚に襲われた。  感情を面に見せず、無表情の彼から思わず目を逸らしてしまう。  その顔は綺麗すぎるがゆえに、感情のひとかけらも読みとれなくて、こわいとすら感じてしまう。 「埋めようとするたびになんで距離つくんの? 百香は俺のこと本当はどう思ってんの?」 「……なんでそんなこと訊くの。今まで私の存在を無下にしてきたのは奏志のほうでしょ」  なんだろう、この胸の底から湧き上がるような、とてもとても嫌でたまらない感覚は……。視線から逃れたままの私に彼は淡々と言葉を紡ぐ。 「知ってた? 百香は俺に触られると体強張らせてんの」  ある筈もない時計の刻む音が頭のなかで響いて、否が応でも針は止まることはないのだと現実を突きつけられている気分に苛まれる。 「中三の時だったか――そん時も百香が勝手に嫉妬して勝手に不機嫌になって、だから手っ取り早く機嫌直そうとキスしたら、俺のこと即座に押し返してさ、今みたいにそうやって顔背けたよな」 「……それは、初めてだったし、キスされるなんて思ってなかったからで……」
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