掬う、月日は滲む

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「それがそん時だけだったら、俺はとっくに手出してるよ。百香はこわいんだよ、俺と一線越えた関係になるのが」  こわごわと視線を戻したのなら、彼は自嘲めいた笑みを浮かべていて、あまりにもその表情が奏志らしくないものだから酷く動揺してしまう。 「百香が思うより俺は百香が好きだけど――けど、百香は自分で思うより俺のこと、〝幼なじみ〟を越えられるほど好きじゃないだろ」  たとえば青空を見上げて〝今日は天気が良い〟というような、曇天のもとで〝雨になりそう〟というような……そんなただ紛れもない事実を告げるかのような言葉に、私は声をなくしてスカートをくしゃりと強く握った。  血の繋がりがあろうと縁が途切れるのは簡単で、呆気のないことを知っているから、まるで終わりが漂うこの空気感に胸が押し潰されそうになる。  ついさっき、どんな結末であろうと別れがくることに覚悟を決めた筈なのに、固めたはずの選択がボロボロと崩れてゆく。 「百香は俺のこと男として意識するようなってから、好きだっていう割には矛盾して俺に極力触れようとしてこなかったし、俺が必要以上触ろうとすれば、いつも困った顔で目逸らされて――百香はさ、俺が百香から離れていかないこと以外に一体何を望んでた?」
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