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汚れが落ちるに従い、そいつの姿が現れていった。玉のようにコロンとした生き物は、やっぱり人間だった。丸々としたその姿は、まるでハムスターのようだった。
石鹸の欠片をあげると、花が咲いたような笑顔になった。もこもこ泡を立てて、気持ちよさそうに洗いだすそいつを見て、私は思わず吹き出した。……よかった、気づかれなかった。
「いやぁさっぱりしました。ありがとうございました」
すっかりきれいになったそいつは、真っ白な玉のような裸体を揺らし、こちらに笑いかけた。
「どういたしまして」
「なにかお礼を、と言いたいところですが、生憎できることが限られてますので」
申し訳無さそうにヘコヘコしだすそいつに、また笑いがこみ上げる。なんだか可愛い。
「お礼はいいよ。それより、あなたって妖精かなにかなの?」
「あぁ、それよくいわれます」
そいつは笑顔でこう続けた。
「ただの尻子玉ですよ」
この日の晩、父は息を引き取った。
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