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「おとーさん、今年もいないの?」
娘の言葉に、夫は申し訳無さそうに微笑んだ。
「ごめんなサッちゃん。どうしても行かなくちゃいけないんだ」
彼は素晴らしい人だった。父親としても、夫としても。
だけどクリスマスだけは、必ずどこかへでかけてしまう。それは友人の家や、カラオケ、漫喫など様々だ。この流れは結婚前から、今年で7年目になる。
年に一回くらい羽根を伸ばしてもいいじゃない。そう思って、私は自由にさせていた。
娘はふくれっ面をしているが、帰ってきた彼が手にしているプレゼントを見れば、だろう。
「じゃあ行ってくるよ」
いってらっしゃいと手を振りつつ、私は思う。
実は彼、サンタだったりして。
「はい、これ」
そう言って差し出したプレゼントを見て、サチエは無邪気に跳ねた。よかった、今年も喜んでくれた。
「ねぇ、きて」
サチエに手を引かれ、私は柔らかな寝具と、柔らかな彼女に包まれる。
愛人と過ごせる唯一のイベント。完璧な夫、完璧な父の、唯一の秘密である。
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