クリスマスの秘密

1/1
前へ
/1ページ
次へ
「おとーさん、今年もいないの?」  娘の言葉に、夫は申し訳無さそうに微笑んだ。 「ごめんなサッちゃん。どうしても行かなくちゃいけないんだ」  彼は素晴らしい人だった。父親としても、夫としても。  だけどクリスマスだけは、必ずどこかへでかけてしまう。それは友人の家や、カラオケ、漫喫など様々だ。この流れは結婚前から、今年で7年目になる。  年に一回くらい羽根を伸ばしてもいいじゃない。そう思って、私は自由にさせていた。  娘はふくれっ面をしているが、帰ってきた彼が手にしているプレゼントを見れば、だろう。 「じゃあ行ってくるよ」  いってらっしゃいと手を振りつつ、私は思う。  実は彼、サンタだったりして。 「はい、これ」  そう言って差し出したプレゼントを見て、サチエは無邪気に跳ねた。よかった、今年も喜んでくれた。 「ねぇ、きて」  サチエに手を引かれ、私は柔らかな寝具と、柔らかな彼女に包まれる。  愛人と過ごせる唯一のイベント。完璧な夫、完璧な父の、唯一の秘密である。  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加