映画

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 病室で一人の男が横たわっていた。危篤だった。医師と看護師が、静かに彼を見守っている。  誰かが部屋に入ってきた。連絡を受けた彼の妻だった。 「あなた!」  彼女が叫び、男に駆け寄る。  そして別れの言葉を言おうと口を開いた瞬間、彼は息を引き取った―― 「カーット!」  上空から声が響いた。  先生、看護師、そして妻の3人がふーっと息をつく。 「お疲れ様でしたぁ。いやーいい作品になったんじゃないですか」  先生役がにこやかに妻役に語りかける。 「でも最後やりすぎじゃない?来た瞬間に死ぬって」 「それ位ドラマチックじゃなきゃ、神様の心は動かないよ」  二人の会話に、看護婦役が横で呟いた。 「天国行きになってくれればいいさ」  照明、音響、大道具達の撤収は早い。もう外の景色が空と太陽だけになっていた。  役者たちもクランクアップの花束を貰い、帰る支度を始める。彼らは49日間の休暇後、すぐに次の撮影が始まるのだ。  人生は編集され、一本の映画となり、天界映画館で上映予定だ。レビュー星5になれば、主人公は天国に行けるのだが。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加