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病室で一人の男が横たわっていた。危篤だった。医師と看護師が、静かに彼を見守っている。
誰かが部屋に入ってきた。連絡を受けた彼の妻だった。
「あなた!」
彼女が叫び、男に駆け寄る。
そして別れの言葉を言おうと口を開いた瞬間、彼は息を引き取った――
「カーット!」
上空から声が響いた。
先生、看護師、そして妻の3人がふーっと息をつく。
「お疲れ様でしたぁ。いやーいい作品になったんじゃないですか」
先生役がにこやかに妻役に語りかける。
「でも最後やりすぎじゃない?来た瞬間に死ぬって」
「それ位ドラマチックじゃなきゃ、神様の心は動かないよ」
二人の会話に、看護婦役が横で呟いた。
「天国行きになってくれればいいさ」
照明、音響、大道具達の撤収は早い。もう外の景色が空と太陽だけになっていた。
役者たちもクランクアップの花束を貰い、帰る支度を始める。彼らは49日間の休暇後、すぐに次の撮影が始まるのだ。
人生は編集され、一本の映画となり、天界映画館で上映予定だ。レビュー星5になれば、主人公は天国に行けるのだが。
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