いちゃいちゃ

3/7
565人が本棚に入れています
本棚に追加
/222ページ
   こんな大病院の院長回診。きっとぞろぞろ連れて一言二言指示して意味ありげに頷き、出て行くのではないか。そう失礼なことを考えていた。  毎度お馴染みのノックの音。院長は、担当医師ではなく20代後半くらいの医師と森下さんのみを伴ってやってきた。  思ったより若く見える。50代半ばといったところ。身長はジェイより少し低い。太っているとまではいかないが、それなりについている肉が貫録を見せている。縁の無い眼鏡をかけていて、ちょっとインテリ風だ。 「どうも。きちんと挨拶するのは初めてですね。(さわ)と言います。この病院の院長をやっています」  その言い方の軽さに吹きそうになって蓮は耐えた。 (まさなりさんの類友か……) ちらっとジェイを見ると神妙な面持ちだ。たぶん結果のことで頭がいっぱいなのだろう。 「河野です。お世話になります」 「いいんですよ。病院はお世話するとこですからね。なによりゆったりと構えていてください。特に河野さんにはそれが一番ですよ」 (この人は……)  自分の症状を考えてソフトな話し方をしてくれているのだ。精神的に負荷のかかった患者に圧迫感を与えない、そんな気遣いがある。 「さて、ポリープですがね、ちゃっちゃと結果言っちゃいましょう。大丈夫です。心配ありません。もう考えなくていいです」  あまりにもスパっと言われて、心配するんじゃなかったと思うほどだ。 「本当!?」  ジェイが大声を上げたから蓮は顔を伏せてしまった。 (こら! 後で拳骨だからな!) でも院長は「はい、本当ですよ」とジェイに笑いかけてくれた。 「前に胃潰瘍をやってるんでしたね」 「はい」 「その時にいろいろ注意を受けたでしょう?」 「はい」 「じゃ、それを守ってください。そういう注意なんてどこで聞いても中身は同じです。あなたのタイプはストレスが好きだ。いや、好んでストレスを負うんじゃないでしょうが、平気なふりをしてストレスを大事に育てる。違いますか?」  今度こそ思わず声を出して笑ってしまった。  
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!