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こんな大病院の院長回診。きっとぞろぞろ連れて一言二言指示して意味ありげに頷き、出て行くのではないか。そう失礼なことを考えていた。
毎度お馴染みのノックの音。院長は、担当医師ではなく20代後半くらいの医師と森下さんのみを伴ってやってきた。
思ったより若く見える。50代半ばといったところ。身長はジェイより少し低い。太っているとまではいかないが、それなりについている肉が貫録を見せている。縁の無い眼鏡をかけていて、ちょっとインテリ風だ。
「どうも。きちんと挨拶するのは初めてですね。澤と言います。この病院の院長をやっています」
その言い方の軽さに吹きそうになって蓮は耐えた。
(まさなりさんの類友か……)
ちらっとジェイを見ると神妙な面持ちだ。たぶん結果のことで頭がいっぱいなのだろう。
「河野です。お世話になります」
「いいんですよ。病院はお世話するとこですからね。なによりゆったりと構えていてください。特に河野さんにはそれが一番ですよ」
(この人は……)
自分の症状を考えてソフトな話し方をしてくれているのだ。精神的に負荷のかかった患者に圧迫感を与えない、そんな気遣いがある。
「さて、ポリープですがね、ちゃっちゃと結果言っちゃいましょう。大丈夫です。心配ありません。もう考えなくていいです」
あまりにもスパっと言われて、心配するんじゃなかったと思うほどだ。
「本当!?」
ジェイが大声を上げたから蓮は顔を伏せてしまった。
(こら! 後で拳骨だからな!)
でも院長は「はい、本当ですよ」とジェイに笑いかけてくれた。
「前に胃潰瘍をやってるんでしたね」
「はい」
「その時にいろいろ注意を受けたでしょう?」
「はい」
「じゃ、それを守ってください。そういう注意なんてどこで聞いても中身は同じです。あなたのタイプはストレスが好きだ。いや、好んでストレスを負うんじゃないでしょうが、平気なふりをしてストレスを大事に育てる。違いますか?」
今度こそ思わず声を出して笑ってしまった。
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