立て直す

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  「夢中になったもんって、なに?」  しんみりしてきたから花は話題を変えた。 「コーヒーだ」 「コーヒーに夢中って、どういうこと?」  蓮は説明した。大先生にもらったコーヒーグッズの話。 「俺なりのブレンドを作ってみようと思ったんだよ。それで夢中になってた」 「なんか、オモチャもらった子どもみたい」 「失礼なヤツだな!」  哲平は別のことに気づいた。病院が患者にそういうものを何も無しに与えるだろうかということ。 「なんでそれもらったの?」 「なんでって……」 「理由があるんでしょ? そうじゃなきゃそんな話にならないよね」 「俺がコーヒーが好きだと言ったからじゃないか?」 「それだけかなぁ」  大先生の言葉を思い出してみる。 「『心を解きほぐすことが第一だ』、確かそう言ってたな」 「それでコーヒーか! 好きだもんね、ブラック」  それで浜田のことが浮かんだ。 「浜田にブラックが好きな訳を聞かれたことがあったよ」 「なに? 訳があんの? 甘いの嫌いっていうんじゃないの?」 「それもあるが。黒が好きだって言ったら笑われた」 「黒が好き? え、それでブラック?」 「ゴマは白と黒のどっちがいいんだと聞かれて、それも黒だと答えた」 「うっそ! それが理由なの?」 「黒が好きで悪いか。夕べもその話を蒸し返されて笑われた」 「夕べって……夕べ? 浜ちゃんが来たの!?」  哲平が素っ頓狂な声を上げた。 「来たよ。いろんなことを喋った。帰っていいと言ったけど……結局時間いっぱいいてもらった」 「いてもらったの?」 「うるさいな、いてくれって言ったんだよ」  哲平の追及が半端ない。 「へぇ、そう! つまり寂しかったんだ。それで浜ちゃんを引きとめた。俺たちにメールしてきたっていいんだよ、寂しいから相手してくれって」 「黙れ! 寂しくなんかない!」 「帰ったら浜ちゃんをシメる! 抜け駆けするなんてきったねぇ」 「花! 余計なことするな!」  3時までそんなくだらない話をして2人は病院を出た。 「……寂しいよね。だって会社でも家でも1人になったことなかったでしょ?」 「そうだな。でも今はどうしようもない」  無理に時間を作って病院に来てくれていた蓮を考えると、哲平はとても切なかった。  
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