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コーヒーは美味かった! 高揚感が増した。達成感がある。
(美味いなぁ……)
しみじみと思い、じっくりと味わった。
病室に戻ってカップを洗い、吸水シートを敷いたトレイの上に伏せる。午後、部屋で使ったカップもその隣に伏せた。後で他のカップと並べておくつもりだった。
「河野さん、お食事ですよ」
「はい。ありがとうございます」
サイドテーブルに並んだ食事は、まだ以前の自分の食事量には及ばない。メニューは小どんぶりで親子丼だった。鶏肉はささみを使っている。吸い物と小松菜のお浸し。ひじきがある。どれもささやかな量だ。
「無理はしないでくださいね」
必ず言われる言葉だ。確かにこれを食べきれるかどうか分からない。
トレイの上を見た看護師は2つのカップを持って出て行こうとした。
「そのカップは」
「使ったんでしょう? こちらで洗っておきますね」
「いえ、もう洗ったんです」
「ちゃんと消毒もしますので。5種類揃ったら次の月曜の朝お返しします」
「土日ってコーヒーは飲めないんですか?」
「お休みしてください。飲まない日も作らないと。先生がお見舞いの方に作るなら構わないと言ってましたよ。その時は戸棚のお客様用のカップを使ってくださいね」
(ってことは……どうしてもピンクだ、青だと使う日が来るってことか? ……汚い! 使ったカップは取り上げるのか!)
それで腹が立っている。自分は使ったカップを誤魔化す気だったが、それについては(俺の考えたのは可愛いもんだ)と開き直った。
それが昨日のコーヒー事情だ。今日は早いうちに終わらせようと、ピンクを使った。やはりハンドタオルで外側を隠す。
飲みながら思う。
(チャレンジ…… このカップを使って俺のなにを変えようっていうんだ?)
嫌がらせではなく、何かを期待されている。それは分かったが。
夕食は時間はかかったが頑張って食べた。途中で気分が悪くなって少しの間休み、なんとか完食した。早く帰りたい。復帰してジェイを見守りたい。
(食って元気になろう。それが出来なくて何が鬼だ)
気持ちがまた先走る。正しい方向を見つけてはまた迷路に入る。自分ではそれが見えていない。
夜、メールが来た。9時手前。
『会いたい。明日行く。会いたいよ、蓮』
返事を迷わなかった。
『俺も会いたい。待ってる』
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