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「いい人か?」
『大学生なんだって。源ちゃんは見てただけで、眞喜ちゃんと匠ちゃんが面接したんだよ。それで喋ったのはほとんど匠ちゃんだったんだって!』
「へぇ、それはすごいな! それで?」
『それでね…… 後は行ってからのお楽しみ! それでいい?』
「なぁんだ」
「……今、聞きたい?」
(どっちなんだ、お前は。勿体ぶりたいくせに)
ジェイはそれが苦手だ。内緒にするのが難しい。『後の楽しみに』と言いつつ、バラしてしまうのがジェイだ。
「いいよ、楽しみにしとく。そっち出たら連絡くれよ。今日は散歩の許可が出た。出来ればお前と行きたい」
『うわっ! うわっ! うわっ!』
蓮は慌てて耳から話した。
「怒鳴るなって!」
『早く行く! 駅からは走るね!』
ジェイはほとんど叫んでいる。
「だめだ、走るな! 車に轢かれたらどうするんだ!」
『轢かれないように走る!』
「だめ! 歩いてこい、約束しろ」
『えええ』
「約束してくれ。ちゃんと信号では左右を見るんだ。黄色では歩くな。いいな?」
『……俺、29歳だよ』
「それがどうした」
『道路くらい歩ける』
その声がすでに29歳を感じさせない。
「だって1人だろ。大丈夫なのか?」
1人で電車に乗ってくる。それだけでも相当なストレスのはずなのに。
『蓮に会いに行くんだもん、平気だよ。じゃ、駅に着いたら電話する』
「……それならいい。いいか、気をつけるんだぞ」
『うん! じゃランチの支度するね!』
蓮は気が気じゃない。
(駅に迎えに行きたい…… さすがに許可出ないか)
窓に手をつける。ガラスは冷たい。でもそれほど風が無くて散歩にはちょうど良さそうだ。
(ジェイ…… 遠く離れると恋しいよ。長い距離と長い時間離れてるんだよな。やっと今日会えるんだ)
蓮の中で距離と時間の捉え方がズレているのだが、元々はロマンティストだ。今はその中に充分漂っていて、幸せだ。
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