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さて、看護師に行先を伝えれば病室を出るのは全く構わない。11時に食事を持ってきた森下さんにそのことを伝えた。
「それで近くまで来たら連絡が入るんです。1階まで迎えに出てもいいですか?」
「迎えに、ですか?」
森下さんが不思議そうな顔をして聞く。ジェイがそこまで心配になる対象とは思っていないし、蓮がそこまで心配性だとも思っていない。
「ええ、焦って走って転ぶのも心配なので。そのまま散歩に出て良ければそうしたいですし」
森下さんはちょっと考えた。
(走って転ぶの? ……ほんの少し離れただけなのに一刻も早く会いたいのね)
「いいですよ。行く時にナースコールしてください。私が1階までお連れしますから」
「1人でも大丈夫ですよ」
「お呼びください。いいですね? お食事、慌てずに召し上がってください」
(なんだか俺の方が子どもみたいだ)
大人として扱われていないような気がする。
1時36分、ジェイから電話がかかってきた。
『ごめんね、遅くなっちゃった!』
「大丈夫だよ。今どこだ?」
『駅! ね、走れば3分で着くんだけど』
「だめだって言ったろ! 1階の待合室で待ってるから。慌てずに来い」
『はい』
ナースコールをするとすぐに森下さんが来た。散歩用だという真っ白でふかふかの病衣を手にしている。それに着替えたが体がデカいせいかどうももたもたと恰好がつかない。
(これで行くのか?)
ジェイに会うのでさえ恥ずかしいくらいだ。用意された車椅子に嫌々座る。すると病衣のせいで座面がいっぱいいっぱいだ。真っ白でデカくてまるで白熊。
(車椅子だっていうだけで人目につくのに!)
よほど1階に行くのをやめようかと思ったが、その上からふかっと大きな肩掛けをかけられた。紺色に薄いグリーンの細い縞がまばらに入っている。
「こういう色の方が暖かくなりますからね。しっかり包んでおきましょう」
(さっきよりいいか)
そう思うことにしてエレベーターに乗せてもらった。
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