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「後は1人でいいですから」
そう言ったが、森下さんはジェイが来るまでいるつもりだ。
「散歩の場所や範囲などをちゃんとお伝えしないといけませんから」
そう言われればしょうがない。感動の再会のつもりだが、大人しく出迎えることにした。
蓮は勘違いをしていた。最初に真っ白でかなりぶかぶかしている姿を鏡で見ていたからそれよりはマシと思っただけ。白熊が黒熊になっただけだ。
本当に走りこんできたジェイは危なくそばを通り過ぎるところだった。
「ジェイ!」
「え、あれ?」
蓮の声で戻ってきたジェイは車椅子にこんもりとした黒い人が蓮だとは思いもしなかった。
「蓮……?」
「なんだよ、俺が分からなかったのか?」
途端にジェイは吹き出して笑い転げた。
「おも、おもしろい、れん、おも……」
「なにがだ!」
「くま、みたい……だめ、おもしろくま……」
感動どころか台無しの再会だ。森下さんがとりなす。
「今の河野さんが風邪をひくと免疫力が低いので重くなる可能性があるんですよ。笑わないで上げてくださいね」
さすがにそれを聞いてジェイは「ごめんなさい」と謝ったが蓮は横をぷいと向いてしまった。
森下さんにすればこの夫婦は面白いし微笑ましい。
(蓮司さんは甘ったれやさんなのね? 笑われてショックだったんだわ。しっかりしているのは蓮司さんの方だとばかり思ってた)
その意外性が森下さんのツボになったようだ。
ジェイに散歩の範囲などを説明する。
「3時ごろからは空気が冷たくなると思います。日陰を避けて戻ってきてください。部屋に入ったら着替えをさせてあげてナースコールをお願いします。お任せしますね」
「はい! ちゃんと連れて帰ります!」
「お願いします。河野さん…… ごめんなさい、お2人とも河野さんでした。蓮司さん、ちゃんとジェイの言うことを聞いて楽しんできてくださいね」
ムカッと来た蓮が言い返すより先にジェイが答える。
「任せてください!」
「行ってらっしゃい」
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