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「キスしたいな」
「うん……え?」
「だから、キス」
「だめだよ! 病院の庭だよ? どこから誰が見てるか分かんないし!」
「もう寒くなってきた」
「寒い!? 早く病室に帰ろう!」
「キスしたら」
「蓮!」
「しないと帰らない」
「蓮、無理言わないで」
「帰らない」
「入院して我がままになったよ!」
「俺はお前のためにおむつした」
「…………」
ジェイは周りを見回して、ついでに病院の窓も見まわして、蓮の両肩に手を置いた。
――ちゅっ ちゅっ
素早く2度キスをしてまた急いで周りを見渡す。
「ん。満足した。今はこれでいいよ」
にこにこして姿勢の良くなった蓮を見て心で思う。
(クマさん蓮、可愛い!)
部屋に戻ったのが3時10分。ジェイはナースコールで部屋に戻ったことを伝えた。蓮の着替えを手伝う。口に出そうな言葉を飲み込んだ。
(クロクマの下にシロクマがいた!)
着替え終わるころに森下さんが来た。
「どうでした? 寒くなかったですか?」
「はい、気持ちいいくらいでした」
蓮のすっきりした顔を見て森下さんも喜んでいる。
(さっき窓から見たのは言わないでおこう)
散歩の様子が見えるかと下を覗いたのだ。ジェイにキスしてもらって蓮が嬉しそうに背をピン! としたのをちょうど見てしまった。
(可愛らしいご夫婦。蓮司さん、今日は甘えたい放題なのね。すっかりご機嫌になっちゃって)
同性のカップルを数組世話してきたが、ここまで仲のいいカップルは初めてだ。
(これなら素敵だわ。みんな顔突き合わせるとケンカといがみ合いだもの)
散歩用の病衣を受け取って部屋を出ようとした。
「森下さん」
「はい?」
「次の散歩も……それ着るんですか?」
「気に入りませんでした?」
「他にあればと思って。そうでなかったら家から持ってくるとか」
「じゃ、今度行く時は何着か持ってきますね。デザインの違うものもあるので選んでいただいて構いませんよ。じゃ、後で検温に伺いますね」
(なんだよ…… 他にあるんなら最初っから出せばいいじゃないか)
「蓮、ぷっくんぷっくんしてるよ! どうしちゃったの?」
「いや、別に」
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