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「まだ時間あるな。コーヒー淹れてやるよ」
「コーヒー? 自動販売機なら行ってくるよ」
「いいから座れって」
誰かに淹れるのは初めてだ。これはちょっと興奮する。
応接室でコーヒーグッズを広げる。ジェイは興味津々で見ていた。
「ね、それ何するの?」
コーヒーミルだ。答えずにコーヒー豆を入れる。それをゴリゴリと擂り潰していく。
「それ、どうなっちゃうの?」
それにも答えない。ジェイは辛抱強く説明を待っていた。やがて豆が消えてしまい、蓮は下の引き出しを開けた。
「ねぇ! それって、コーヒー? それをお湯に溶かすの!?」
「違う違う。もっと先がある」
もうジェイはワクワクしている。挽いたコーヒーの香りが部屋中を満たしていく。
サーバーを出してセットし、ポットのお湯を注ぐ。
『申し訳ないけどお湯は我慢してください。キッチンが無いので電気ポットです。温度は設定してますから変えないでくださいね』
そう言われているからそのままだ。熱いのは禁止されているから我慢だ。
ジェイはテーブルに片頬をつけてサーバーをじっと見ていた。
(こら! 俺を誘ってるのか?)
そうとしか思えない姿。罪作りなジェイだ。
(この! 俺がなにも出来ないと思って!)
だが、何もできないのが事実だ。そこまで無理をするわけにはいかない。
2つのカップにコーヒーを注いだ。ジェイの前にその片方を置いて何と言うか待ちながら飲む。
ほぉっと溜息をついて、夢心地に呟いた。
「コーヒー、作っちゃった。蓮ってすごい!」
こういう作り方を見たのが初めてのジェイ。じっとコーヒーを飽きもせず眺めている。蓮はその反応に満足したのだが、そのうちイライラしてきた。
「飲んでみろよ! 普通のコーヒーと味が違うぞ」
「うん」
カップを手に取って香りを嗅ぐ。うっとりとしている。
「俺、この匂い好き!」
「匂いだけじゃない、すごく美味いから」
蓮に促されてちょっぴり啜った。
「蓮、お砂糖とミルクは?」
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