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森下さんが出て行ってジェイは蓮の隣に座った。膝の上に載っている手を握る。頬にキスをした。
「ごめんね。俺のせいで蓮にいっぱい謝らせちゃった」
「いや、俺もわる」
唇を塞がれて少しのキスをし、ジェイは蓮の額に自分の額をつけた。
「蓮は謝らなくていいんだよ。ね、俺もさっき分かった。蓮は良くなってないんだって」
「体はもう」
無理さえしなければ大丈夫なんだと言おうとした。けれどジェイの声は静かで、蓮は口を閉じて耳を傾けた。
「だめだよ。まだ休まなきゃ。俺ね、蓮の分も頑張るって思ったんだ。店のこととかいろんなこと。でもどうやっても蓮みたいにはなれないの。どこが違うんだろうって考えたよ。ううん、蓮をバカにするって意味じゃないよ」
蓮の鼻の頭にキスをする。
「そこ、間違ってたみたいな気がする。蓮と違っててもいいんだよね。だって本当に違うんだもん。俺は蓮にはなれないんだ。だからね、蓮もちゃんと蓮でいてほしいの」
少し混乱する。ジェイの言おうとすることが掴めなくて。
「否定、しないのか? このままじゃだめだって」
「このままじゃだめだよ! だって今は俺の蓮じゃない。人は大切にするけどあんなに頭下げるのは蓮じゃない!」
ジェイの語調は強くて、蓮は違うジェイを見ているような気がした。
「それで気がついたんだ」
「なにが?」
「退院するって決めたんでしょ」
「決めたって…… そりゃ退院はするさ!」
「そうじゃなくって。蓮はそれを目標にしちゃったんだ。だからその計画を成功させるために立て直そうってしてる」
どこが違うのか。きちんとした生活を送ればちゃんと退院できるはずだ。出されたものを完食するように努め、規則正しく生活する。看護師さんたちには迷惑をかけないようにし、ルールには従って。
「なに言ってるんだ、自分を立て直さなきゃ退院できない。どこかおかしいか?」
「全然意味が違うよ! 良くなるのが目的じゃなくなってる。計画の成功のためだけに立て直してるんだ、仕事みたいに。それで帰ってきてどうするの? また倒れるの? だったら……帰ってこない方がいい」
声が出ない。突然ジェイに声を持っていかれたような。
「俺は蓮に帰ってきてほしいよ、とっても。夜寂しい。朝起きて寂しい。店で蓮の声が聞こえなくて寂しい…… でもね…… それ、今の蓮じゃないの。俺は…… 間違ってると思う、今の蓮の考え方」
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