◆最悪な一日◆

3/4
前へ
/60ページ
次へ
「里崎さんがモテるのわかる気がします。給湯室で、女性社員がカッコイイって言ってましたし」 「へぇー、俺のことカッコいいって言ってくれてんの? じゃあ、結城ちゃんもそう思う?」 「いいえ。私のタイプではありませんので」 「うわぁ〜、手厳しい。俺は、こんなにも愛情かけて結城ちゃんを育ててるのにさぁ~」 視線を上げて一瞬窓際の席を見た舞だったが、里崎に視線を戻す。 どちらかというと大人の色香があって、真面目で頼りがいがあって几帳面な人が好ましい。 舞の理想を具現化したような人が、この部署にいる。 三澤商事・営業二課の三枝(さえぐさ)課長。舞の直属の上司だ。 仕事が出来るのは当たり前だが、なによりシャツも糊付けがきちんとされ、スーツにしわひとつ無い。 それに、髪の毛も後ろに流して整髪料で固めていて、乱れたところを見たことが無いのだ。 きっちりかっちりが大好物の舞にとって、三枝は理想の上司であり、見た目も理想そのものだった。 ――今日もやっぱりかっこいい。 「ちょっと、結城ちゃん俺の話聞いてる?」 「聞いてます。里崎さんには、感謝してますよ。でも、それとこれとは別なので」 可愛げのない言い方になってしまったな、と眉尻を下げ里崎を見ると、シュンッと肩を落としている。目もウルウルさせて、まるでチワワみたいだ。 ――また、やっちゃった。 モテないのはこういうところなんだな、と反省する。 眉尻を下げ、舞は申し訳なさそうに切り出す。 「……でも私、里崎さんのこと頼りにしてますので」 これは本当だ。 こうやって少し強く言いすぎるのをさりげなくフォローしてくれて、他の社員との潤滑剤になってくれている。 さっきまで切なそうな顔をしていた里崎が、「うん。めいいっぱい頼っていいからね!」と、満面の笑みを浮かべた。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加